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2022年11月7日月曜日

秋田・建設業フォ-ラム,雑木林の世界17,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199101

 秋田・建設業フォ-ラム,雑木林の世界17,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199101


雑木林の世界17

 秋田・建設業フォーラム

                        布野修司

 

 秋田商工会議所と秋田県商工会議所連合会が主催する「地域活性化セミナー 建設業フォーラム 建設業の労働力確保のために」(秋田市文化会館 九〇年一一月一五日)に行ってきた。一一月号で予告した通りである。

 「職人不足は誰のせい」と題して基調講演をしたあと、パネルディスカッションにも加わった。パネラーは、中川実(秋田県土木部次長)、佐々木悦男(秋田魁新報者政治経済部長)、長谷川駒造(秋田県商工会議所建設部会長)の三氏、司会・コーディネーターが藤沢宏氏(秋田県商工会議所専務理事)である。パネルディスカッションに先だっては、三人の意見発表があった。すなわち、①人手不足に関して、水原精治(水原工務店)、②労働条件の改善について、高橋千代治(日本海建設)、③公共工事について、太田光重(北勢工業)の三氏である。

 意見を要約すると以下のようになる。

 ①人手不足に関して 若年層を中心とする建設業離れが深刻化しつつある理由は、労働条件など旧態依然のままで体質改善を図ろうとしなかった業界自身に最大の責任がある。さらには、造形美に対する価値観や評価の衰退により、創造の喜びがなくなったこと、また、学校教育における建設業界の理解不足、3K、6Kというマスコミの安易な発言もその一端である。最近の好景気で発注は好調だが、人手不足で受注の拡大ができず、経営が伸びない。人手不足により工期がハードスケジュールにならざるをえず、労働環境の改善が思うようにならないという悪循環を繰り返している。建設業は県民の生活や産業活動の基盤整備に対しいかに大きな役割を担っているのか、広く社会的にアピールし、業界のイメージアップを図る必要がある。産・学・官一体となって従業者確保の施策を講じなければならない。

 ②労働条件の改善について 以下の改善が急務である。元請会社または協力会社、関連業種と連携した日・祭日の休みの徹底、時短の早期導入。協力会社の賃金台帳の整備と賃金水準の引き上げ。徒弟制に替わる技能工の訓練養成のための場の整備充実。現場を中心とした労働環境の改善。

 ③公共工事について 繁期には仕事が集中し、人手不足、コストアップなどの問題が生じる。逆に端境期には、仕事の減少で従業員を失業させねばならない。建設業の安定的経営、従業員の安定的確保のためには、公共工事については以下のことが必要である。発注時期の適正化による安定した施工量の確保。積雪地帯であることを考慮した冬機関工事の実現(通年施工の実現)。来年の労働基準法改正による労働時間短縮を踏まえた、適切な工期設定と積算の配慮。単年度工事について、官公庁予算の繰り越しによる、余裕ある工期の実現。資材の市場実勢に順応した適時な発注単価の改訂。

 なんのことはない。基調講演など必要ないのである。問題はしっかりと把握されているのだ。技能労働者不足をめぐるテーマはおよそ以下のようだ。

 

 A.サイト・スペシャリストの雇用条件、労働条件の改善

  1.賃金体系 職業生涯モデルプラン 

    社員化 常雇化 身分認定 

        月給制 年俸制  生涯賃金保証  職長の身分、待遇改善

  2.労働環境改善 福祉対策

    週休二日制    四週六休制

    工事の安全

    施設環境のアメニティー

     現場ハウス レストラン ユニフォーム ロッカー

    呼称(職制)

  B.建設業界の構造改善

  1.重層下請構造

  2.工事単価

    三省協定の改革

    算定方式の抜本改定

  3.情報公開

 C.教育・養成・訓練・研修

  1.技能・職能・資格

    訓練内容 技能伝承のあり方 既存技能評価

    マイスター制度

  2.専門技能家養成

     多能工の技術教育

     若年層の育成と確保

  3.職人大学の創設

 D.新建築システム

  1.省力化技術 生産性向上 

  2.建設産業情報ネットワーク

  3.建設ロボット CAD CAM

 

 もちろん、短い時間で全てが話されたわけではない。昨年一一月に発足したサイト・スペシャルズ・フォーラム(詳細次号)での議論も含めると以上のようなテーマが浮かび上がってくる。全国同じように労働者不足問題が問われ始めているのである。

 しかし、新たに気づかされたことも多い。例えば、当り前の事だけれど、地方には地方の事情があることだ。特に、積雪地帯では冬季に仕事ができない。だから、これまで、冬季には出稼ぎをする、というパターンであったのであるが、大都市圏との賃金格差が広がりすぎて、地方にはUターンしない、といった現象がみられるのである。ただでさえ、若者の新規参入がないのに加えて、都会に労働者を採られる。二重の苦しみである。結果として、地方の環境を支える建築技能者の問題が一番深刻なのである。

 もうひとつ、建築と土木で積算のシステムが全く異なっていることもそうだ。建築の工事単価の見積が、図面だけでなされ、建設技能労働者の賃金と直接結びつかないシステムが決定的である。ここでも、建築士の問題がキーを握っていることが確認されるのである。

 公共工事についても、従来から様々な問題が指摘されてきたところだけれど、この際、システム自体を抜本的に見直す必要がある。一方で入札不調が続いているのである。予算の単年度処理の問題にしろ、官僚制の大きなシステムがそう簡単に変わるとは思えないけれど、職人不足の問題に行政機関が深く関与していることも間違いないのである。

 いささか深刻な意見発表を受けて、パネル・ディスカッションの全体トーンは、暗くならざるを得なかったのであるが、結論は意外に楽天的であった。ものをつくる喜びを知る若者は決して無くなりはしないだろうと。

 






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