第一回インタ-ユニヴァ-シティ-・サマ-スク-ル,雑木林の世界25,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199109
雑木林の世界25
飛騨高山木匠塾
第一回インターユニヴァーシティー・サマースクール
布野修司
飛騨高山木匠塾の第一回「インターユニヴァーシティー・サマースクール」(芝浦工業大学藤沢研究室、千葉大学安藤研究室、東洋大学太田・布野・浦江研究室を主体とする)を無事終えた(七月二三日~二九日)。参加人数は約六〇名。心地よい疲れが残っている。次のプログラムへ向けて、様々な思いが頭の中を駆け巡る。とりあえず、思いつくまま振り返ってみよう。およそのプログラムは以下のようであった。
●視察・見学
○植生論(中川護久々野営林署次長、上河同所長)
名古屋営林支局管内の自然条件、飛騨の森林と林業、木の使い方などについて説明を受けながら、金山谷で桧の切り出しの現場をみる。リモコン・チェインソーとチェインソーによる伐採比較。ゆうに全日プログラムであるが、今回は半日。
○家具製作工程(於、飛騨産業)
飛騨家具の特徴などの説明の後、曲げ木の製作工程見学。約一時間のプログラム。
○高山市内見学。
屋台会館見学。吉島邸、日下部邸見学。伝統的建造物地区見学。二時間プログラム。これまた今回は時間不足であった。最低一日欲しい。
●演習・実習(安藤、藤澤、布野)
○木匠塾(岐阜県大野郡高根村阿多野郷久々野営林署野麦峠製品事業所)の整備(掃除に、布団干し)
○足場組立演習
開校式の舞台設営を兼ねる。日総産業のスリー・エス・システム。SSF協賛のプログラムである。木匠塾に鋼管足場は似合わないのだが、早い。二時間で組立て終わる。来年は、足場丸太の演習か。足場解体演習も。
○高山祭り屋台 模型製作(10分の1)
昼ごろ開始、深夜完成。
○ブリッジ・プロジェクト
木匠塾の二棟をつなぐ、丸木橋の建設。番線緊結実習となる。
○ウオーターフォール・プロジェクト
水道およびクーリング・プール(冷蔵池)の建設。
●講義
○木造建築技術者養成プログラム
安藤正雄
藤澤好一
布野修司
○合同ゼミ(安藤、藤澤、布野)。ロシアン・ルーレット・ゼミ。木匠塾の改造計画についてフリーディスカッション。
○特別講義
上河 潔(久々野営林署署長)「日本の森林と林業」
足立秀夫(飛騨産業副社長) 「飛騨産業と飛騨高山」
川尻又秀(高山屋台保存会) 「高山祭りと屋台」
垣内忠佳(飛騨高山匠の家) 「産直住宅・飛騨高山匠の家」
桜野功一郎(高山市文化課) 「高山の民家と町並み」
小野辰雄(日綜産業) 「建築家とは」
かなりのハードスケジュールであった。第二回からは、もう少しのんびりしていいと思う。午前中、一講義、午後、実習あるいはフリータイム、夜、一講義、ぐらいでいいのではないか。ファックス、コピー、ビデオ(テレビは、NHKしか入らない)があれば、自由時間にそれぞれ好きな仕事をする、そんな余裕が欲しかった。一回目ということで、少し入れ込み過ぎたきらいがある。フィールドでの植生論や高山の町並み視察は、ゆうに一日プログラムである。涼しい中で一夏過ごす、だんだん、そんなプログラムになっていくのかもしれない。そうなると、一年分ぐらいの大学のカリキュラムもこなせる筈だ。サマースクールも連合自由大学の色彩を帯びて来る。
カリキュラムの内容については、今年数本のビデオのストックができたし、年々豊富化していくことは間違い無い。世界中の木造文化についてのビデオライブラリーが遠からずできるに違いない。
実習については、教材は無限である。生活環境の整備でも沢山のプログラムができる。裏の山の木を間伐し、切り開きながら、必要な施設を造っていけばいい。トイレ用のバイオ・タンクとか、ソーラーバスとか、来年すぐ必要な施設もある。作業場とか、教場もつくる必要がある。宿舎棟の改造、建て替えも、日程にのぼる筈である。
屋台の建設が時を刻む。今年は十分の一の模型だけど、来年は五分の一の模型である。それと原寸で部分をつくる。新しいメカニックを考案して、新たにデザインする。十年後にできれば立派なものだ。屋台保存会の川尻さんによれば、高山の屋台は二百年の年月をかけてつくられたのであり、一朝一夕にできるわけはないのである。屋台は生きている。番外で、高山祭りで曵かしてもらえる事態が起こるかもしれない。
生活環境についての学生の反応が興味深かった。最初の日、布団を干したのであるが、シーツを持参しなかったこともあって、いやいやの態度がみえみえであった。それに汲み取り式便所が駄目である。さらに、蛾とか大きな蟻とか、虫が駄目である。生理的についていけない。日程の終わりには、慣れるのであるが、大自然の中で暮らすことだけでも意味があるのである。
一週間寝泊まりして、費用はアルコール抜きでひとり一万五千円程度である。かなりの安上がりではないか。自炊をすれば、費用はもっと安くなる。困るのは、風呂である。近くの民宿の風呂と露天風呂を使わせてもらったのであるが、それでも車で二十分かかる。木匠塾に風呂はあるのであるが、いかにも狭い。来年はなんとかする必要がある。食事も工夫する必要があるかもしれない。
第一回のインターユニヴァーシティー・サマースクールは、無事に終わった。しかし、これからが大変である。冬場の雪下ろしなど、維持管理の問題がある。端的に言って、費用がかかる。今回、木匠塾を使えるようにするのに百万円程度の費用がかかったのであるが、なんとか捻りださなければならない。
まあなるようになるだろうと、楽天的なのであるが、いずれ、しっかりした基金を用意する必要がある。この場を勝手に借りて、読者の皆様の絶大なる支援をお願いしたい。また、来年以降、インターユニヴァーシティー・サマースクールには、さらに多くの大学の参加をお願いしたい。来年からは、八月の第一土曜日を最終日とする一週間程度の開校予定である。八月の第一土曜日には、毎年、木匠塾のある高根村で、「日本一かがり火祭り」が開かれるのである。
(第一回インターユニヴァーシティー・サマースクールの報告書、ヴィデオ(総集編 45分)は、布野もしくは藤澤までお問い合わせ下さい。)
七月二三日 一時半 現地飛騨高山木匠塾(岐阜県大野郡高根村阿多野郷久々野営林署野麦峠製品事業所)集合。午後いっぱい、木匠塾の整備(掃除に、布団干し)。夜、野麦峠の「お助け小屋」にて、前夜祭。
七月二四日 午前 フィールド視察。植生論(中川護久々野営林署次長、上河同所長)、名古屋営林支局管内の自然条件、飛騨の森林と林業、木の使い方などについて説明を受けながら、金山谷で桧の切り出しの現場をみる。午後、開校式の舞台設営を兼ねて、足場組立演習。日総産業のスリー・エス・システム。SSF協賛のプログラムである。木匠塾に鋼管足場は似合わないのだが、早い。二時間で組立て終わる。来年は、足場丸太の演習か。午後三時より、開塾式並びに開校式、高根村、久々野営林署、ひだ高山・匠の家共同組合、高山屋台保存会、森林たくみ魁塾など、沢山の来賓の祝辞をうける。懇親会は、学生主体のパーフォーマンンス大会。大人が割り込んで大いに盛り上がる。
七月二五日 午前、足場解体、後片付け。午後、大学対抗親睦野球大会。第一回は東洋大学の優勝。夕飯後、合同ゼミ。ロシアン・ルーレット・ゼミと呼ばれる。その後、木匠塾の改造計画についてフリーディスカッション。
七月二六日 午前、飛騨産業にて家具製作工程視察。屋台会館見学。吉島邸、日下部邸見学。午後、レクチャー、夕食を夾んで四時限、各一時間半。
上河 潔(久々野営林署署長)「日本の森林と林業」
足立秀夫(飛騨産業副社長) 「飛騨産業と飛騨高山」
川尻又秀(高山屋台保存会) 「高山祭りと屋台」
垣内忠佳(飛騨高山匠の家) 「産直住宅・飛騨高山匠の家」
七月二七日 午前 スライド・レクチャー。
桜野功一郎(高山市文化課) 「高山の民家と町並み」
午後、実習。
a 高山祭り屋台 模型製作(10分の1) 深夜完成
b ブリッジ・プロジェクト 木匠塾の二棟をつなぐ、丸木 橋の建設。番線緊結実習
c ウオーターフォール・プロジェクト 水道およびクーリ ング・プール(冷蔵池)の建設。
夕刻より、AF(建築フォーラム)主宰パーテイー
七月二八日 自由研修(高山見学 ます釣り等)。夕刻、フェアウエル・パーティー
七月二九日 清掃、後片付け。十時すぎ解散。
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