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2022年12月17日土曜日

ア-バンア-キテクト制,雑木林の世界74,住宅と木材,199510

ア-バンア-キテクト制,雑木林の世界74,住宅と木材,199510

雑木林の世界74

アーバン・アーキテクト制

 

  マスター・アーキテクト制について、本欄で触れたことがある(雑木林の世界61 一九九四年九月)。その後、「アーバン・アーキテクト」という耳慣れない言葉がつくられようとし、一人歩きし始めている。建築文化・景観問題研究会((財)建築技術教育普及センター)の座長を引き受けていて、なんとなく、「アーバン・アーキテクト」構想、あるいは「アーバン・アーキテクト」支援事業(建設省住宅局)について巻き込まれ出している。この間の経緯と最近考えていることを紹介してみたい。

 「アーバン・アーキテクト支援事業」という構想は、簡単にいえばこうだ。まず、まちづくりに意欲的に取り組もうとする建築家をセンターに登録する。また、まちづくりに関する様々な業務について専門家の援助を希望する自治体を募る。センターは、運営委員会を組織し、自治体の要望に最も相応しい建築家を登録名簿から複数選定し、自治体に推薦する。自治体は、推薦された建築家の中から必要に応じて建築家あるいは建築家のグループを選び業務契約を締結する。建設省は、まちづくりに関わる様々な補助事業をこの仕組みを活用する自治体について優先的に考慮し、支援する。選定された建築家(グループ)は、業務についてセンターに報告し、その経験を公表することによって評価蓄積する。

 こうした支援事業が構想されるに至った背景は私見によれば以下のようである。

 ①いわゆる景観問題という形で、日本のまちづくりのあり方が見直される中で、新たな都市建築行政、事業手法がもとめられるようになってきた。具体的には、景観デザイン、アーバン・デザインといった分野、業務の必要性が求められるようになってきた。

 ②建築行政としては、建築基準法の遵守のみを旨としてきた従来の建築規制、建築指導行政から総合的なまちづくりをリードしていく誘導行政の必要性が意識されてきた。

 ③また、建築行政と都市計画行政の隔絶が強く意識され始めた。具体的に縦割行政の弊害も指摘される。さらに、景観デザインにおける土木分野と建築分野の協調の必要性も意識される。

 ④一方、行政の簡素化、規制緩和、地方分権の流れが次第に大きく意識されつつある。従来の建築主事による建築確認、検査は十分ではない上に、簡素化するとすれば別の仕組みが必要である。また、地域に固有な景観形成のために行政の分権化、弾力的対応は不可欠とされる。さらに、住民のニーズに即応できるような機動性をもった対応も必要とされる。

 ⑤以上のようなまちづくりの新たな流れを具体的に支えて行くには、地域のまちづくり、景観デザインを総合的に持続的に担っていく専門家、職能が必要とされる。そうした職能を担うのに最も適しているのは建築家である。建築家も新たな業務、職能分野の開拓という意味でも、与えられた敷地で設計する従来の業務にとどまらず、まちづくりに積極的に関与していく必要がある。

 ここでいう建築家を仮に「アーバン・アーキテクト」と呼ぼうということだ。「シティ・アーキテクト」、「タウン・アーキテクト」、「コミュニティ・アーキテクト」などといった方がわかりやすいかもしれない。どんな名前が定着していくかは今後の問題である。

 しかし、それ以上に問題なのは、一体「アーバン・アーキテクト」という職能にはどのような専門性、能力が必要とされるのか、また、どのような仕事を行うのか、ということだ。さらに、どのような仕組みにおいて、「アーバン・アーキテクト」を位置づけるか、という問題である。

 「アーバン・アーキテクト」に、まず要求されるのは、端的に言って、デザイン能力である。しかし、このデザイン能力というのが一般的にわかりにくい。また、説明しにくく、誤解を受けやすい。デザイン能力という場合、絵画や彫刻などアートの世界の能力とは必ずしも同じではない。アーキテクトの基本的能力は、実に様々な要素をある調和を持った全体へまとめあげる総合力にある。「アーバン・アーキテクト」となると、一個の建築をまとめあげるだけではなく、まちづくりをまとめあげるさらに高次の能力が要求される。具体的に、都市計画に関わる諸制度、様々な事業手法についての知識も必要になる。また、地域の歴史や文化について鋭く深く理解する能力が要求される。

 「アーバン・アーキテクト」に期待されるのは調整能力である。「マスター・アーキテクト」というと全体をワンマン・コントロールするイメージがあるけれど、民主的なプロセスにおいて意思決定を行う仕組みを確立した上で調整することが重要である。・・・と考えていくと、大変な能力が必要とされる。果たして、どれだけの建築家が対応できるであろうか。建築文化・景観問題研究会では、精力的に各地の建築家と懇談を行っているのであるが、建築家の側にも多大の努力が必要である。建築士という資格を基礎としながらも、より高次の資格制度が必要となるかもしれない。

 「アーバン・アーキテクト」制を構想する上で、さらに大きな問題は、「アーバン・アーキテクト」をどのようなまちづくりのシステムとして位置づけるかという問題がある。具体的には、だれが報酬を保証するかということを考えてみればいい。既に、試みられているのは、例えば、「アーバン・アーキテクト」を嘱託として自治体が雇用する形がある。また、コンサルタント派遣事業という形がある。究極的には、権限の問題がある。ある程度の権限が委譲されないと、審議会の形とそう変わりはないことになる。

 さらに大きな問題は、「アーバン・アーキテクト」の手法として何が有効かという問題がある。単なる条例やマニュアルでは意味がない。それを具体的なイメージとして提案するのが「アーバン・アーキテクト」である。それも地図を色で塗り分ける形でなく、ヴィジュアルに地区のあり方を提示していく役割が「アーバン・アーキテクト」にはある。また、公共建築の設計者の選定のあり方を提案することも必要になるかもしれない。

 今考えているのは、各自治体で地区毎に「アーバン・アーキテクト」が考えられないかということである。もちろん、上位にアーバン・アーキテクト連絡会議が設けられ、全体にマスター・アーキテクトが考えられていい。「アーバン・アーキテクト」は任期制とする。地域に根ざした建築家を主体とするが、他の地域の建築家との協働も考えられていい。制度以前に多くの試行錯誤が必要である。  





 

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