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2022年12月28日水曜日

エスキス・ヒヤリングコンペ公開審査方式,雑木林の世界36,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199208

 エスキス・ヒヤリングコンペ公開審査方式,雑木林の世界36,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199208

雑木林の世界36

エスキス・ヒヤリングコンペ・公開審査方式

加茂町文化ホール(仮称)

 

                         布野修司

 

 七月に入って、飛騨高山木匠塾の第二回インター・ユニヴァーシティ・サマースクールが近づいてくる。準備は例によって、藤澤好一先生にお任せなのであるが、今年も賑やかになりそうである。京都大学からは十人が参加、これだけでも昨年の規模を超えるが、一人、二人と問い合わせがあるから、反響もまずまずである。足場組立実習、屋台模型(1/5)製作が楽しみである。

 しかし、それにしても六月は忙しかった。手帳を見直すといささかうんざりする。

 六月一日 中高層ハウジングコンペ、ヒヤリング(長谷工コーポレーション) 東京

 六月三日 日本建築学会近畿支部発表会 大阪

 六月四日 アジア都市建築研究会題 京都

 六月五日~六日 松江市景観シンポジウム「まちの景観を考える」基調講演 松江

 六月一二日 中高層ハウジングコンペ、ヒヤリング(旭化成工業他) 東京

 六月一三日~一四日 NHK教育テレビ特集「C.アレグザンダーの挑戦」収録 東京

 六月一五日~一六日 加茂町文化ホール(仮称)設計者選定委員会。 加茂町(島根県)

 六月一八日 二一世紀日本の国土を考える研究会(建設省官房政策室) 東京

 六月二〇日 東南アジア学研究フォーラム 京都

 六月二三日 特別講義「東南アジアの木造デザイン」(神戸芸術工科大学) 神戸

 六月二五日 アジア都市建築研究会「インドネシアの伝統的民家」(佐藤浩司) 京都

 六月二六日 シンポジウム「バブルが創る都市文化」(中筋修 隈研吾他)コーディネーター 大阪

 六月三〇日 松江市景観対策懇談会 松江

 一体何をやってるんだと叱られそうである。もう少し腰を落ちつけてと思うのであるが、何か得体の知れない流れに流されているというのが実感である。まあ、走りながら考えるしかない。秋にはまた東南アジアのフィールドへ出かけてこの間を振り返る時間をとろうと思う。

 

 さて、加茂町の文化ホールである。

 出雲建築フォーラム(IAF)については、これまで何度か触れた(雑木林の世界09「出雲建築フォーラム」一九九〇年五月、雑木林の世界28「第一回出雲建築展・シンポジウム」一九九一年一二月)。京都には、京都建築フォーラム(KAF)が既にあるし、今年は沖縄建築フォーラム(OAF)とか、東北建築フォーラム(TAF)とかが発足するという。各地域で面白い試みが展開されていく期待があるのであるが、出雲は想像以上の展開である。

 岩國哲人(出雲市長)効果であろうか、出雲では、次々に若い首長が誕生しつつある。加茂町の速水雄一町長もその一人だ。四〇台半ばである。「遊学の里・加茂」をキャッチフレーズに果敢にまちづくりに取り組み始めたところである。

 その一環として、文化ホールの建設を核として新しい何か試みができないか、という相談を受けたのは五月頃のことであった。きっかけは出雲建築フォーラムである。首長が文化施設を施策の目玉にする、というのはどこでもあるパターンである。だから、それだけでなく、その運営も含めて、また、建設のプロセスも含めて、ひとつのイヴェントとしてまちづくりにつなげられないか、というような意欲的な話だった。

 同じく相談を受けた錦織亮雄(JIA中国支部副支部長)、和田喜宥(米子高専)の両先生と相談してやることになったのが、エスキス・ヒヤリングコンペの公開審査方式である。

 いま、建築界では、コンペ(設計競技)のあり方をめぐって、様々なガイドラインが設けられようとしている。日本建築学会や新日本建築家協会(JIA)、建設省で独自の指針がつくられつつあるのである。そうした中で、例えば、林昌二(日建設計)による「採点方式」の提案もある。環境への配慮、使いやすさ、安全への配慮、魅力の度合い、維持費と寿命といったクライテリアで各審査員が採点し、総合点で決めようというのである。若い審査員が他の委員の顔色をうかがわずに採点できるメリットがあるという。

 私見によれば、何をクライテリアにするか、果たして点数化できるか、単に足し算でいいのか、等々、採点方式にはかなりの疑問がある。建築はなによりも総合性が一番だと思うからである。問題は公開性である。公開性の原則さえ維持されれば、異議申し立ても可能になる。審査員も厳しくチェックされる筈である。今回の加茂町文化ホールでは、とにかく審査のプロセスを公開してしまおう、せっかくすぐれた建築家にアイデアを出してもらうのだから、町の人にもどんな文化ホールが欲しいのか一緒に考えてもらおう、というのが素朴な主旨である。うまくいくかどうか、これからの問題である。審査員も大変な能力が要求されるが、とにかくやってみようということになった。当事者ながら、興味深々である。

 エスキス・ヒヤリングというのは、建築家にできるだけ負担をかけないように、最小限のプレゼンテーションのみでいい、という方式であるが、実際は、模型やビデオを用いたプレゼンテーション競争になりがちである。建築家の熱意はそうしたプレゼンテーションに自ずと現れるものであるが、プロの審査員としては当然、実現する建築そのものをきちっと評価できる目が必要である。一方、裏の事情としては、小さな自治体としては指名料をそんなに用意できないという事情がある。今回は、A1版の図面2枚程度で八〇万円という設定になったのであるが、どうであろう。

 加茂町といっても知る人は少ないのだが、宍道湖に面した宍道町に接し、奥出雲の入り口に位置する。その名が暗示するように、京都の上加茂神社の荘園があったところであり、宇治、嵯峨といった京都を見立てた地名がある。それに町内の神原神社から、全国二番目に景初三年銘三角縁神獣鏡が出た土地柄である。すぐ裏は、銅剣が一挙にこれまでに出土した数を超える三百数十本出土して考古学会を驚かせた例の荒神谷である。

 とにかく、出雲と京都に縁のある、出雲建築フォーラムのメンバーおよび第一回出雲建築展への出展者から選んだらどうかというのが僕の意見であった。結果として、指名建築家と決定したのは、亀谷清、高松伸、古屋誠章、山崎泰孝、山本理顕、渡辺豊和の六人である。みな快く引き受けて頂いた。公開ヒヤリングは、十月初旬である。




 


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