技能者養成の現在,雑木林の世界31,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199203
雑木林の世界31
技能者養成の現在
茨城木造住宅センター・ハウジング・アカデミー開校
布野修司
年が明けて、SSF(サイト・スペシャルズ・フォーラム)の運営委員会が京都で開かれた。一周年記念の国際シンポジウム「明日のサイトスペシャリスト」は大成功であったのであるが、活動二年目の方針をどうするか、がテーマである。
●支部設立を軸に定例フォーラムを開催する
●「職人大学」構想の実現化へむけたプログラムを具体的に実 施する
●SSFニュースの充実
●報告書の出版
マイスター制度視察報告
国際シンポジウム報告など
●調査研究、技術開発
実態把握をもとにして情報公開のシステムを構築する。
技術開発、研究開発を行なう
●出版、ビデオ制作など、SSFの存在をアピールするための 諸方策を検討し、事業化を図る。
●その他、各種イヴェント、事業の可能性を追求する
などが検討事項であった。
続いて、「楔の会」が同じく京都で開かれた。「楔の会」というと知る人ぞ知る、日本の木造住宅行政に先鞭をつけたグループである。建設省建築研究所の第一研究部長の鎌田宣夫氏が組長(会なのに何故か組長という)をつとめられる。十年ほど前、たまたま本誌に書いたことがあるのであるが(「木造住宅歳時記 熊谷うちわ祭り」 一九八三年八月)、木造住宅研究会と居住文化研究会が合同して結成されたのが「楔の会」である。偶然、その発足の会に立ち会った経緯があって、名前だけの会員にして頂いてきた。今回は、セキスイハウス総合研究所の「納得工房」の見学を中心プログラムとして初めて関西で開かれたのであった。
この十年、木造住宅をめぐる状況の変化は隔世の感がある。随分と一般の木造住宅への関心は高まったといっていい。しかし、木造住宅はどんどん減りつつある。どんどん減るから、関心は高まる、そういうことだ。この流れは如何ともしがたいのであろうか。抜本的な施策はまだないのである。
このところの業界の焦点は技能者養成である。木造住宅の振興を計ろうにも、技能者がいなくなるのであればどうしようもない。例えば、京都の町家を保存しろといっても、修理や改築を行う大工さんをはじめとする職人さんがいなくなればどうしようもないではないか、そんな声がある。一方、「木造住宅、木造住宅」というけれど、木造住宅を建てる人がいなくなれば、木造関連の技能者など必要なくなるではないか、という声がある。木造住宅の需要が増えるのであれば職人は自然と育つ、減るのであれば職人はいらなくなる、議論を乱暴に単純化すれば、根底にはそうした需要と供給の問題がある。ただ単に、職人を養成すべきだ、木造住宅を増やすべきだ、といっても始まらないことである。
しかし、技能者の養成の問題、木材生産の問題はもとよりそんなに単純ではない。第一に言えるのは、時間がかかるということである。特に、技能者養成は一朝一夕でできるものではない。木材生産についても、外材に頼らず、国産材主体で考えるということになれば、言うまでもなく、長期的な視点とプログラムが必要である。その時々の需給関係に委ねればいいというわけにはいかないのである。
第二に言えるのは、人の育成というのは社会の編成そのものに関わるということである。林業や建設業に入職する若者が少ないというのは、何も若者のせいではない。木造住宅を支える世界全体、業界や社会全体の問題である。技能者教育の問題である以前に学校教育の問題であり、ひいては社会全体の問題である。偏差値によって一元的にその能力が判断される学歴社会において、職人社会は評価されない。社会的に評価も薄く、報酬も少ないとすれば、若者が参入しないのは当然のことである。
こうした中で何がなされなければならないのか。社会の編成を問題にする以前に業界の体質改善の問題がもちろんある。建設業界には解決すべき問題がまだまだ数多い。というより、問題は構造的であり、構造そのものの改善が必要である。
職人養成については、既に様々な取り組みがなされている。それなりの資本力をもった民間企業が技能者養成に力を入れるのは、その死活に関わる以上、当然のことである。しかし、技能者養成は決して民間企業にまかせおけばいいわけではない。
問われているのは全体システムである。深刻なのは中小の工務店の方である。問題は、徒弟制によって職人の養成を全体として引き受けてきたそうした世界なのである。徒弟制の復活を試みることはアナクロであるとしても、地域地域で新しい仕組みをどう再構築するかがテーマとなる筈である。
行政の役割があるとすれば、地域における職人養成の仕組みをどう支援するかであろう。この欄で二度触れた(九〇年八月、九一年一一月)「茨城木造住宅センター・ハウジングアカデミー」の試みはそのひとつである。
「茨城木造住宅センター・ハウジングアカデミー」も、この間紆余曲折があった。しかし、どうにか四月開校にこぎつけそうである。インドネシアに出張していて、肝心の時には、谷卓郎先生、藤澤好一先生に全てお任せであったのであるが、細部をつめるに当たっては難しい問題が続出した。まだまだ、クリアしないといけない問題は山積しているのであるが、なんとか出発できる、そんな段階に至ったことは実に快挙といえるのではないか。
まず指摘できるのは、住宅行政の側から投じられた施策が商工労働行政との調整連携によって実現しようとしていることである。全国でも珍しいことではないか。技能者養成のプログラムは、社会全体の編成に関わる以上、各省庁の施策は当然関連してくる。特に、地方自治体のレヴェルでは緊密な連携が必要となる。茨城は、そのささやかな先例となるのではないか。
訓練科目、訓練課程、訓練内容、訓練機関、訓練時間など研修内容、施設整備の他にも実施に向けて検討すべき課題もまだまだ多い。雇用条件も、組合員で同一に決定しなければならない。新入生の宿舎などもきちんと確保しなければならない。教授人のリストアップはできたのであるが、生活指導体制の確立も急務である。OJTのプログラムも具体的に組む必要がある。
しかし、本当の問題は運営費用をどう捻出するかである。住宅請負契約額の一%を組合でプールするとか、恒常的な運営基金を考える必要があるのだ。個々の工務店が養成の費用を個々に負担するのは大変である。そのコストを組合全体で、また地域の業界全体でプールする仕組みはないか。困難な試みの行方に次のステップが見えてきた。
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