人工肛門
人工肛門(じんこうこうもん、stoma、消化管ストーマ、消化管ストマ)とは、消化管の疾患などにより、便を排泄するために腹部に造設された消化管排泄孔である。
ストーマとは消化管や尿路を人為的に体外に誘導して造設した開放孔のことを指す。人工肛門保有者(あるいは人工膀胱保有者)のことをオストメイト(もしくは英語読みで「ストマ、ストーマ」保有者などと呼ぶ)と呼ぶ。通常、ストーマにパウチ(便を収容する袋)などのストーマ用装具を取り付け、パウチから排泄した便を一時的に収容するようにして生活する。
種類[編集]
人工肛門は厳密には部位ごとに呼び方が違うが、以下の2種に大別できる。
造設の理由[編集]
主に消化器系疾患などにより、一時的、もしくは永続的に造設する。造設の原因は疾患によって違うが、なんらかの理由で肛門からの排便ができなくなる場合に行われることがほとんどである。一時造設の場合は、しばらくの期間をおいて、ストマ閉鎖手術をする。造設の理由はさまざまであるが、多くは大腸(小腸)の一部もしくは全部を摘出することによって、肛門の使用が困難になった場合に行われる。永久造設の場合は障害者手帳の取得基準に達する。
コロストミーの場合の排泄方法[編集]
コロストミーの場合、排泄方法は自然排便法と洗腸法がある。自然排便法とは排泄口から自然に排泄される便をパウチで受けて処理する方法であり、洗腸法とは一定量の微温水をストーマから注入し、強制的に排便を促進させる方法である。
自然排便法は、便意に従った排泄方法であり一般的に負担が少ないことが特長である。パウチについては、不時の排泄に備えた常時装着が必要なためその使用量が増加し、粘着剤によりストーマ周辺の皮膚にかぶれやただれを招き易い。
洗腸法は手技の習得が必要だが、洗腸終了後は一定時間(24時間 - 48時間程度)排便を恐れない安心した生活が可能で、野外の長時間労働も容易であり、パウチ装着が必須ではなく、皮膚障害を招き難いことが利点として挙げられる。洗腸法を用いても、不時の排便に備えてストーマ用装具は装着することが無難である。洋式トイレへの改造や洗腸場所(トイレや風呂場等)の長時分独占(約1時間前後)などの考慮も要される。老齢化により大量の水を注入しなければ排便できなくなる場合もある。又、災害時のために洗腸用の水を備蓄するのが望ましい。
洗腸法は、老齢化などで体力が低下したときや大災害などの場合には実施困難になるため、最近は推奨されないことが多い。 洗腸法を行っている人も自然排便法も習得し、状況に応じた使い分けが望ましい。洗腸が不便な場合や意にそぐわない時は、随時自然排便法に切り替えられ、体力低下や老齢化に伴う自然排便法への移行に無理が少なく、災害時の洗腸に対する不安も解消できるなど利点が多い。
人工肛門保有者への社会福祉制度[編集]
障害者手帳や障害年金がある。そのほか医療費控除や障害者控除などもある。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
オストメイト(Ostomate)とは、癌や事故などにより消化管や尿管が損なわれたため、腹部などに排泄のための開口部(ストーマ(人工肛門・人工膀胱))を造設した人のことをいう。単に人工肛門保有者・人工膀胱保有者とも呼ぶ[1]。
タイプ[編集]
以下の3つに大別される[1]。人工肛門保有者はコロストメイト及びイレオストメイト、人工膀胱保有者はウロストメイトと同義である。
- コロストメイト - 結腸ストーマ(コロストミー Colostomy)保有者
- イレオストメイト - 回腸ストーマ(イレオストミー Ileostomy)保有者
- ウロストメイト - 尿路ストーマ(ウロストミー Urostomy)保有者
生活[編集]
オストメイトであることを理由とした、特別な食事制限等は必要とされない[1]。ストーマの形状によって適切な装具を選択し、周辺のスキンケアや定期的な装具交換が必要とされる[1]。装具を装着している状態であれば公衆浴場でも問題なく入浴可能であるが、オストメイトであることを理由として公衆浴場への入浴が拒否される事例も発生している[2]。
排泄物の処理時には、ストーマ装具の交換や周辺皮膚の洗浄等が必要となるため、通常のトイレでは排泄処理が困難である。このため多機能トイレや、オストメイト対応を謳うトイレが必要である[3]。
オストメイトは自己管理可能であるため、通常の状態では特別な手助けは必要ない[2]。一方、災害発生時には消耗品であるストーマ装具や洗浄用の水道水が入手困難になることもあることから、災害時の備えや支援が重要とされる[4]。
排泄物の状態や装着位置を確認出来るように透明なパウチが主流だが、排泄部が見えることでストレスとなるため不透明なパウチも登場している[5]。またパウチを保持したまま性交渉が可能な下着などを販売する服飾メーカーも存在する[5]。
オストメイトをサポートする社会福祉制度[編集]
- 主な社会福祉制度は身体障害者手帳と障害年金である。そのほか医療費控除や障害者控除などもある。詳しくは、各市区町村の福祉事務所や年金窓口、勤務されている事業所管轄の年金事務所、税務署などに問い合わせのこと。
- 身体障害者手帳の申請と交付
- 対象:永久造設のストーマに限る。
- 申請時期:ストーマのタイプに関わらず、ストーマ造設後すぐに申請ができる。
- 等級:オストメイトの場合障害程度の等級は通常4級。複数の障害がある場合、3級や1級が認定されることがある。
- 交付手続き:市区町村の福祉事務所で申請用紙、用紙をもらい、病院で診断書を作成してもらい、福祉事務所で申請し、障害程度の認定審査をうけ認定されると、身体障害者手帳が交付される。
- 手帳の利用:身体障害者手帳の取得によって、日常生活用具の交付、JR旅客運賃や国内航空運賃など各種交通機関の割引、有料道路割引券交付、公園・美術館など各種公共施設利用料の割引・無料化などの、各種サービスが受けることができる。
- 日常生活用具(ストーマ用装具)の給付申請:身体障害者手帳が交付されると、使用する日常生活用具(ストーマ用装具)の給付を申請できる。
- 対象:身体障害者手帳の交付者
- 種類:ストーマ用装具(蓄便袋・蓄尿袋(パウチ)など)
- 給付額:居住する各市区町村によって異なる。
- 申請手続き:市区町村の福祉事務所に問い合わせのこと。
- 日常生活用具(ストーマ用装具)の給付申請:身体障害者手帳が交付されると、使用する日常生活用具(ストーマ用装具)の給付を申請できる。
- 障害年金
- 障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金がある。
- 障害の程度(等級)や身体障害者手帳の等級と年金額は無関係である。
- 障害年金以外に他の年金(例:老齢年金や遺族年金)を受ける権利があるときは、それらの組み合わせや年齢によって併給できる場合と、いずれか一方のみを選択しなければならない場合がある。
- 障害基礎年金(1級、2級):国民年金加入者の場合。年金額:1級990,100円 2級:792,100円(2006年度金額)。人工肛門または人工膀胱造設の手術をしただけでは通常支給されない。人工肛門と人工膀胱の両方を造設した人など障害の程度の重い人が支給の対象となる。
- 障害厚生年金(1級、2級、3級):厚生年金加入者の場合。年金額は、加入中の給与(平均標準報酬月額)や勤続年数によって算出される。最低補償額は、3級で年額594,200円(2006年度金額)。1級または2級に該当する場合は、障害基礎年金や配偶者加給年金(要件あり)が更に支給される。オストメイト(人工肛門または人工膀胱を造設した人)は通常3級として認定され、年金が支給される。
- 詳しくは、各市区町村の福祉事務所や年金窓口、勤務している事業所管轄の年金事務所などに問い合わせのこと。
- 自費で購入したストーマ装具の費用や他の医療費との総額のうち、年間10万円を超える分は医療費控除の対象となる(問い合わせ・受付窓口:税務署)。
- 障害者自身または控除対象配偶者や扶養家族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には所得控除を受けることができる。控除できる金額は通常障害者1人ごとに27万円である。(問い合わせ・受付窓口:税務署)。
オストメイト対応トイレ[編集]
脚注[編集]
- ^ a b c d “ストーマとオストメイト”. ほっかいどう・おくすり情報室 情報コーナー. 一般社団法人 北海道薬剤師会 (2010年4月5日). 2020年8月15日閲覧。
- ^ a b “オストメイト(人工肛門・人工膀胱のある人たち)の公衆浴場への入浴にご理解ください”. 2020年8月15日閲覧。
- ^ “オストメイト対応トイレの概要”. 公益社団法人 日本オストミー協会. 2020年8月15日閲覧。
- ^ “オストメイトの災害対策”. 公益社団法人 日本オストミー協会. 2020年8月15日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会. “彼女がモデルになった理由~ある“オストメイト”の挑戦~”. NHKニュース. 2021年3月5日閲覧。
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