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2024年7月18日木曜日

四面楚歌の建築家はどこへ向かうべき,居酒屋ジャーナル1,建築ジャーナルNo.1104,200606

居酒屋ジャーナル

四面楚歌の建築家はどこへ向かうべきか

 

耐震計算書偽造事件、ダンピング続出の設計入札、PFIの台頭…。現在、建築界や建築家を取り巻く状況は依然厳しい。

そこで今号から関西在住の建築家と識者4人に、本音で建築について議論を重ねてもらった。


――昨年から建築界にさまざまな不祥事が起っています。特に耐震構造計算書偽造事件は深刻な問題ですが、どのようにとらえていますか。

 

姉歯事件後、やるべきこと

 

布野 建築界にとって大変なダメージだと思っています。この事件を受けて日本建築家協会(JIA)や建築士会、そして国交省が、資格の見直しや倫理教育を改める方向で対処しようとしています。しかし、それだけで解決できません。モラルの問題はそもそも論外。しかし、それでも問題は起きます。その責任は、建築家個人が背負えるものではなく、社会的に担保するような保険制度をつくるべきです。

――保険で責任を担保するなら、確認申請は不要になりませんか。

布野 許可制にしたらいいのですが、審査の能力がないことが今回明らかになった。確認の時に、施主(建設者)も、設計者も、施工者も、利用者(購買者)も保険に加入する。

松隈 私は最近、建築設計から離れていますが、設計事務所の立場から見れば、民間に審査機構が移って、随分と建築申請が楽になったのでは。

永田 日本ERIでもそうですが、民間会社では2週間で許可を下す。他社と競争するから「早い」のでしょうが、これでいいのかという不安がつきまとう。昔だったら、構造上複雑な設計は構造設計者自らが行政の窓口に行き、安全性への配慮を技術的に説明しました。そうしたことが若い行政官の学習の場ともなったのです。だから許可が降りるまで、1カ月なんてすぐ経過しました。今は、設計事務書の経歴を見ただけで、「この業績なら大丈夫」と推測で判をついているとしか思えない。

布野 民間の検査に比べて確かに建築主事の審査は時間がかかった。しかも偽装見抜けなかったわけです。

 今回の事件で、「検査機関は行政も民間も信用できない」、ということが広く世間に認知されたことが逆にチャンスと言えます。「悪徳建築家に遭遇するかもしれないので、保険をかけよう」となる。

横内 偽造事件は、検査機関にとって想定外だったと思いますね。構造計算が適正値かを調べるのではなく、全体が建築基準法に適合しているかを検査するのが主な業務でしょうから。

 今後は、構造とそれ以外の集団規定の項目を分けて、2段階でチェックするなど、厳しくする必要がありますね。

布野 耐震上危険な構造計算を入力可能な大臣認定ソフトも疑問ですが、欠陥のある図面に従って施工してしまう現場もおかしい。つまりそれをチェックできる構造設計者が不在なんです。だから今、構造設計者が社会的な地位を求めるのは当然のことだと思います。

 また構造設計者である姉歯氏は当然罪はあるが、結局その元請の設計事務所が罪を負うことを、世間は分かっていない。

永田 時にその設計事務所の責任をないがしろにする現場に遭遇します。私のところもマンションを何十棟とやっていますが、そこで事件が起きた。構造設計は長年付き合いのある構造設計事務所で、施工は大手ゼネコン。しかし、私の知らないところで、ゼネコンは構造設計を下請けの設計事務所にやらせていた。私の名前を勝手に使って、コストの低い構造設計への変更を申請していたわけです。それに気づいて関係者に抗議し、設計の責任は私にあることを改めて確認してもらいました。実際、姉歯氏のケースは建築界にはよく起こり得るのてはないか。

 

「私たちは悪くない」とJIA

 

――学生はこの事件について、どんな受け取り方をしていますか?

布野 推薦入試の面接時に、18歳の生徒が「あんなの許せません!」と怒っていた。この子たちの方がよっぽど健全ですよ。

松隈 残念なのは、業界全体に対する信頼が失われているときに、どうやってそれを回復するかということが考えられていないことです。

布野 JIA会長は「JIAの建築家は不正をするような団体と違いますよ」と、東京の銀座でビラを配っていた、聞きます。ちょっと違う。問題は仕組みでしょう。このことは建築家職能の問題ともつながります。別の問題ですが、PFIの出現によって建築家の存在自体が抹殺されていきますよ。

 

PFIが建築家を抹殺する

 

布野 5年ほど前から、国が発注する公共建築の仕事はほとんどがPFIです。この方式は簡単に言えば総合評価による競争入札によって民間の事業者を選定します。一定以上の規模の建物はWTOが要求しています。そして、建設のみならず、SPC (特別目的会社) 30年間、維持管理も含めて、運営するわけです。自治体は事業を丸投げでき、こんな楽なことはない。怖いのは、安いのが質の評価で逆転されること。

横内 事業主は経営計画までできなければならない。

布野 地元の設計事務所や工務店などの小さな所はほとんど対応できない。組織設計事務所でも大変でしょう。

横内 いずれにしても、建築業界が非常に企業化していますね。「フリーアーキテクト」が主流の時代でなくなってきていることは、現場でひしひしと感じています。

――自治体はリスクを負いたくない。だから大事業は資本のあるところに任せたいという傾向はどんどん強まっていく…。

布野 もちろんそういうこともありますが、道路やダムなど、公共事業の予算が余り、事業が滞っている側面もある。

松隈 建設投資の出口を探しているような状態ですね。

 

景観法は建設予算のはけ口か

 

――景観法の施行も、建設投資が背景にあるのではと邪推してしまいます。

松隈 ダムや高速道路を建設することは市民からの反対が多い。しかし、景観のために電柱を地下に入れることには予算が通るという理屈で、資本投下され始めている。

布野 私自身は、景観法に対する是非はまだ決めかねています。可能性はあると思う。しかし景観整備は利害が絡むから、あまり思い切ったことができない。合意形成のよい方法がないのです。

 最近、私は宇治市で景観問題に取り組んでいますが、私も会長を務める宇治市都市計画審議会で、都市計画法による高さ規制を見直す方針を出しました。世界遺産である平等院から見渡せる一帯が対象で、その一帯に建設されるマンションの高さ規制になるわけです。これは全国でも画期的なことだと思う。

横内 結局のところ、景観問題は権力がないとできないんじゃなですか。

布野 都市計画は基本的にそうです。

横内 今の行政はいい意味で権力を失い、民衆をまとめきれないという感じを受けます。景観法を自治体が主導してうまく使えば、積極的な取り組みがいくらでもできると思う。でも全然腰が上がらない。

布野 「住民参加」と集まってワークショップをわいわいやったからといって、物事は決まるわけでもない。やはりその間に、オーガナイザーとしての専門家が必要。それは「建築家」ではなくて、「タウンアーキテクト」なんですよ。

(以下、次号に続く)

 

<プロフィール>

プロフィールダミー>

布野修司

滋賀県立大学環境学科教授

ふの・しゅうじ|1939年島根県生まれ。東京大学大学院博士課程中退。京都大学教授を経て、2006年より滋賀県立大学教授。主な著書に『布野修司建築論集』『戦後建築論ノート』など

 

永田祐三

永田北野建築研究所代表

ながた・ゆうぞう|1941年大阪府生まれ。1965年京都工芸繊維大学建築工芸学科卒業。竹中工務店勤務後、1985年永田北野建築研究所設立。1993年村野藤吾賞受賞(ホテル川久)

 

松隈洋

京都工芸繊維大学助教授

まつくま・ひろし|1957年兵庫県生まれ。1980年京都大学工学部建築学科卒業。前川國男建築事務所勤務後、2000年より京都工芸繊維大学助教授。著書に『近代建築を記憶する』など

 

横内敏人

横内敏人建築設計事務所代表

よこうち・としひと|1954年山梨県生まれ。1978年東京芸術大学建築科卒業。前川國男建築事務所勤務後、1991年横内敏人建築設計事務所設立。三方町縄文博物館設計競技1

 

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