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2022年6月20日月曜日

ダプール<木箱のキッチン>,at,デルファイ研究所,199312

ダプール<木箱のキッチン>,at,デルファイ研究所,199312


ダプール・・・木箱のキッチン

ウジュン スラバヤ インドネシア

      

                布野修司

 

 カンポンを歩いていると、路地に高さ六〇センチから八〇センチ、奥行き七〇センチ、幅一メートル二〇センチ程度の木の箱が並んでいるのに気がついた。「アパ・イニ?(これなあに)」と聞くと「ダプール」という。ダプールというとキッチン、台所のことだ。訝しがっていると、蓋を開けて見せてくれた。なるほど、中には、こんろや釜、水瓶、食器類など台所用具一式が収まっている。

 ジャカルタでもスラバヤでもそうだ。かなり高密度のカンポンに行くとこの木箱のキッチンを見ることが出来る。平屋でも千人を超え、一五〇〇人にもなるカンポンがある。そうしたカンポンの住居は極めて狭い。一室かせいぜい二室である。台所のスペースがとれない。いきおい外の路地にはみ出してくることになる。そこで考案されたのがこのカンポンのシステム・キッチンなのである。

 そうしたカンポンの世帯数を数えるのは簡単である。外にはみ出したダプールの数を数えればいいのである。ダプールにも色々個性がある。全て一式台所用品が収められている。また、そこで煮炊きも行われる。蓋をして鍵をかけるのであるが、ベンチにもなる。なかなかの工夫である。

 しかし、それにしても狭い。どうやって暮らすのだろうと誰でも思う。日本であったら考えられないのであるが、気候条件はまるで異なる。生活の中心は戸外なのである。それこそ食事も戸外でとる。料理や調理も戸外で行なう。散髪も戸外である。散髪屋さんのほうが移動してきて戸外に店を開くのである。子供たちが水浴びするのも戸外だし、洗濯も戸外である。場合によると戸外に寝ることもある。公共の、あるいは共用の戸外空間があって個々の住居空間が最少でも生活が成り立つのである。

 経済生活においても、お互いに協力し合う相互扶助の仕組みがある。頼母子(無尽)講である。インドネシアの場合、アリサンと呼ばれる。伝統的な民間金融の仕組みが生きている。一日にいくらかづつ、あるいは、周単位、月単位でお金を出し合い、くじで順に使う。場合によると、二千人規模のアリサンがある。住居の建設や修繕が可能な額である。利子の観念の薄いイスラーム圏だからということもあるけれど、そうした相互扶助のシステムがあってはじめて、経済的貧困を克服できるのである。

 こうした高密度のカンポンにおいて、極めて深刻なのは水の問題である。この間、カンポン・インプルーブメントが進められてきたのであるが、それでも上水道の設備は依然として十分とは言えず、毎日購入する形がまだ珍しくないのである。井戸は海水がまじり飲用水には使えない。水売りやカンポンの中の有力者から分けてもらうのである。また、ゴミの問題も大きい。カンポン内の清掃のシステムは整備されているのであるが、都市全体については未整備である。

 東南アジアの居住問題はまだまだ根深い。

 



 

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