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2022年6月30日木曜日

ワンル-ムマンション研究,雑木林の世界11,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199007

 ワンル-ムマンション研究雑木林の世界11住宅と木材(財)日本住宅・木材技術センター199007

雑木林の世界11

 ワンルームマンション研究

                        布野修司

 ワンルームマンションというと、ひところ大問題になった。一九八〇年代前半のことだ。東京都内では一九八三年にワンルームマンションをめぐる紛争がピークとなっている。その後、各種規制、指導要綱などが整備され、問題は沈静化したかにみえていたのであるが、この間の建築ブームで再び問題が増えてきた。また、都心から郊外へと問題が波及しつつある。

 そうした中で、埼玉県を中心にワンルームマンション問題について調査研究することになった。まだ、実態を概略把握した段階であるが、いくつかのポイントを考えてみよう。

 ワンルームマンションの建設が近隣住民との紛争を引き起こした背景には、様々な問題がある。六〇年代末から七〇年代にかけての日照権問題と同質の問題をはらんでおり、第二次マンション紛争と呼ばれたりしたのであるが、もう少し、複雑な問題がある。問題の位相は少なくとも三つあるように思う。まず第一に、ワンル-ムマンションという住居形式がもつ問題である。また第二に、ワンルームマンションの立地と地域住民との関係の問題である。そして第三に、ワンル-ムマンションを発生させる仕組みの問題である。

 ワンルームマンション問題の第一は、ワンルームということであまりにも狭小な住宅が供給されているという点である。要するに、ワンルームマンションという住宅形式は、社会資本として、住宅ストックにならないという問題だ。また、何故、ワンルーム形式のみのマンションか、という問題がある。このポイントは、第二、第三の問題にすぐさま結びつく。

 ワンルームマンションは、地域に対して極めて閉鎖的な形で建設されることが多い。フィジカルな形態としても閉鎖的であるが、ワンルーム居住者の集団は、単身者だけの小さなコミュニティーとして閉じている。地域社会にとっては異質なことが一般的なのだ。地域社会との軋轢は、その点から派生する。単身者だけの、また、住機能だけのワンルームマンションは、それだけでは自立しえない。むしろ、地域の環境に依存することにおいて初めてその形態はなりたつ。比喩は悪いが、良好な住環境に寄生する形でワンルームマンションは成立している。そこに大きな問題があるのである。

 ワンル-ムマンションという住居形式のもつ問題について、それが引き起こす相隣問題も含めて箇条書きに整理してみよう。

1.住戸面積が狭小であり、単身者の住戸としても問題があるものが多い。住宅ストックにならない。

2.用途地域と日影規制から、建物の高さを10m未満におさえ、階数を4階建にしているものがあり、その場合、天井高は極めて低い。

3.経済効率上、建物の専有部分をできるがぎり大きくとり、共有部分を小さくするという方法をとるために、住環境として基本的に貧しい。

4.特に、ゴミ置き場、自転車置き場を考えてつくられていない場合のあること。

5.敷地を最大限利用しようと、隣棟間隔が狭くし、周囲に空地のない高密な住居となるため、災害時に危険であるものがある。

6.外部に対し閉鎖的につくられることが多い。

7.ワンル-ムマンションの所有者が、そのマンションに住むことは珍しく、また、ワンル-ムマンション自体に管理人のいない場合がほとんどであるため、管理がルースとなる。

8.特に、単身者のライフスタイルから、深夜の騒音やゴミの放置など、近隣に迷惑を及ぼすことが多い。。

 ワンルームマンション問題としてより大きいのは管理の問題である。管理の問題が明確であれば、地域で合意できる問題は多い。だが、管理についてはさらに複雑な背景がある。ワンルームマンションを支える仕組みの問題である。それが第三の問題の位相だ。

  ワンルームマンションが建設される、その原型は、基本的には「庭先木賃」、「庭先鉄賃」のかたちである。すなわち、比較的、敷地に余裕のある地主が自分の敷地内に木賃アパート、あるいは、RCアパートを建ててアパート経営をするかたちである。プレファブ・メーカーが、各種アパートを開発し、商品化してきたのは、そうした需要を前提としてのことである。現在木賃住宅を経営している地主が、老朽化による代替住宅としてワンル-ムマンションを建設しようとすることは、家賃収入を考えた場合、当然であろう。ワンル-ムマンションは、狭い土地に柔軟に計画することが可能であり、容積率を限界まで使い果たそうとしたとき、零細な地主にとって非常に有利な住居形式なのである。

 地主なり家主が隣居する場合はまだいい。しかし、所有者の問題がもうひとつある。ワンル-ム・リ-ス・マンションの所有者は、必ずしも大きな資本をもった事業者ではない。多くの場合、サラリーマンなのである。一方で、自らの住宅取得に汲々とするサラリーマンが多数存在する一方、住テクに走るサラリーマンの存在がワンルームマンションを支えている。そうした複雑な仕組み、構造は、「ワンルームマンション問題」のみならず、住宅問題の複雑さとして指摘されねばならない筈だ。

  サラリーマンは、なぜ、ワンルームマンションに投資するのか、まずは節税、税金対策である。サラリ-マンは、事業用資産としてワンル-ムマンションを購入すると、ロ-ン返済の金利、減価消却費や修繕費などを損金として経費計上でき、この額が賃料収入を上回った場合、赤字分は、税金控除の対象として還付される。

 そして財テクである。サラリ-マンは全く何もせずに、安定した収入を得ることができ、ロ-ン完済後は、不動産のオ-ナ-となることができる。日本では不動産は「株」や「金」にまさるもっとも安定的な資産である。

 ワンルーム・リース・マンションの場合、地下狂乱以前では、一戸当り、一千万円から一千五百万円程度である。購入者はその一〇%程度の頭金、すなわち、百万から百五十万円の一時金と、当面、住宅ローンと賃料の差額、一~二万円を払っていけば、いつのまにか、大型資産の所有者となれるわけである。普通のサラリーマンでもついその気になるのである。やがて家賃とローン返済のバランスが均衡してプラスの財産となってくる。そして、余裕がでてくるとさらにもうひとつのマンションが購入できる。また、転売してキャピタルゲインを稼ぐ手もある。アパートローンも借りやすく、住テクを助長する社会風潮もある。

 こうして問題は明らかになる。事業者はともかく、所有者は、居住者ともワンルームマンションの立地する地域とも一切関わりがなくてすむのである。その論理は、町づくりにつながる契機をもたず、投資の論理において閉じているのである。

 


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