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2023年6月24日土曜日

住宅の生と死ー住宅生産の循環システム, 日本ハウスビルダー協会,19961005

 住宅の生と死ー住宅生産の循環システム, 日本ハウスビルダー協会,19961005


住宅の生と死・・・住宅生産の循環システム


布野修司


 フロー型からストック型へ、住宅生産の仕組みは変わっていかざるを得ない、と言われる。建設投資の割合が減少していくのだとすればそれは必然である。バブル崩壊以後、また地球環境問題の顕在化以後、僕らは、なんとなくフロー型からストック型への構造転換を必然的だと考え始めている。しかし、ストック型生産システムというのは果たしてどういうことか。

 確かに建設投資がGNPの二割を占めるような国は先進諸国にはない。住宅を三〇年でスクラップ・アンド・ビルドしている国はない。イギリスの人口は日本の約半分で比較しやすいのであるが、年平均の住宅供給数は、一九八五年から九〇年の五年で一九万一〇〇〇である。一九六一年から六五年の平均で二八万四一〇〇〇であった。日本は一九六〇年で新設着工戸数は約六〇万戸であったから、人口規模を比較するとほぼ同じ建設数だったとみていい。その後、イギリスの着工戸数は減少して年間二〇万戸程度になった。ということは、日本に置き換えると年間四〇万戸体制である。果たして、三〇年後、日本はイギリスの道を辿っているのであろうか。

 しかし単純に考えてみて、住宅が一〇〇年の耐用年限を持つようになると、住宅生産に関わる人員は三分の一でいい。あるいは、住宅の価格を三倍にする必要がある。そう簡単に構造が変わるのか。その全体構造の帰趨を議論しなければ、日本の住宅生産がストック型に転換しうるかどうかは不明といわねばならないのではないか。

 「中高層ハウジング研究会」でも、ストック型住宅供給システムを前提として、今後の住宅供給システムがどうなるのか、どうあるべきか、議論を続けている。共通にテーマになっているのが、スケルトンーインフィルークラディングの三系統供給システム、あるいはオープン・ハウジング・システムである。スケルトンの寿命が長くなるとすれば、維持管理に関わる産業あるいはインフィル産業へ住宅産業界がシフトしていくのは必然である。インフィル産業界が新たに育ってこなければならない。しかし、一体、スケルトンは何年持てばいいのか、インフィルは何年でリサイクルするのか。そもそも、模様替えして住み続ける住み方が日本に定着するのか。

 問題は単純に耐用年限ではないのではないか。全ての建築材料が建設廃棄物になるのだとすれば、耐用年限を長くすればするほど資源は有効利用できる。しかし、再生可能な材料であるとすれば、リサイクルに適切な年限で循環していけばいいから、耐用年限はしかるべきものでいい。住宅生産システムの評価は単純に耐用年数では決められない。LCC(ライフ・サイクル・コスト)という考えも四半世紀前に導入されたけれど、日本には必ずしも定着しない。前提にすべき条件が明らかでないからである。

 そこで考えられるのは、循環性、多様性、自律性の指標である。住宅生産システムとして、個々のニーズの多様性に対応でき、循環可能な地域内で自律するしうる住居の維持管理、更新システムが問題であって、必ずしも耐用年限ではないのである。

 住宅の生産が本来ローカルなものであるとすれば、あるいは、どんな住宅であれ更新されていくものだとすれば、地域における、あるいは、それぞれの系(企業)における、循環性こそ問題にすべきではないか。地域内で自律的なシステム、地域外へ向かう生産システム、地域と地域を結ぶ生産システムの再編成を考える中で、いかに循環型生産システムを構築するかどうかが、フローからストックへという場合の真のテーマではないのだろうか。



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