公開コンペになぜ応募がない,日刊建設工業新聞,19970221
公開コンペに何故応募がない 9701
布野修司
ある県の公共建築の公開コンペ(設計競技)の審査委員を引き受けて、不思議な思いをした。あるいは、不思議でも何でもないかもしれない。もし不思議でないのなら、誰か解説して欲しい。
このコンペは二段階で、まだ、一段階目を終えたところだ。一段階目は、条件付き公開コンペで五社を指名する。二段階目は、五社が競う。二段階ともプロポーザル方式である。一段階目は参加表明書、二段階目は技術提案書の審査で、それぞれ実績、組織形態等の他、一段階目はA4二枚、二段階目はA3三枚の範囲内で提案内容を示すことが求めらる。
プロポーザル方式については多くの議論が残されているように思う。人を選ぶというのであるが、実績に差がないとすれば選びようがないではないか、と基本的に思う。具体的な土地の具体的なプログラムについての提案がなければ、その建築に最も相応しい建築家は選びようが無いというのが意見である。それに、プロポーザル方式ということで、報酬が少ないことも問題だと思う。設計入札に替わって、プロポーザル方式のコンペが広まるのはいいけれど、実施に当たっては工夫が必要である。行政手間や設計手間の簡素化といった観点からのみの発想でなく、すぐれた公共建築をつくりあげるための多様な手法が選択さるべきだ。プロポーザル方式については、いつか具体例に即して問題にしたいと思うけれど、今回はそれ以前の問題である。
参加資格は、一級建築士が三人以上、五〇〇〇平米メートル以上の実績である。指名願いは提出していなくても、同等の事項を参加表明書に記載してもらうことで選定後指名願いを出してもらうという条件である。従って、オープンである。といっても、一級建築士の数と実績の条件があるから条件付きである。
参加表明書を提出したのは二九社であった。多いのか少ないのか分からない。不思議に思ったのは、いわゆる組織事務所の参加がほとんどなかったことである。大手設計事務所となると二九社中二社のみだったのである。
いったいどういうことか。
要項には、地域との関係を重視することが唄われていた。当該地域での実績、地元設計事務所とのJV(ジョイント・ヴェンチャー)の可能性などについての記載項目が設けられていたことが大きな制約になったのであろうか。しかし、そうとも思えない。地域の気候風土への理解と実績を重視するのは極自然である。また、地元設計事務所への配慮もある意味では当然だと思う。公開コンペということで、すぐれた県外設計事務所の能力を借りるにしても、地域の建築家が切磋琢磨する経験の機会は与えられるべきだからである。応募したのは、いわゆるアトリエ派事務所と地元事務所とのJVの形が目立った。これからのひとつの方向かもしれない。
しかし、それにしても実績十分の大手組織事務所が公開コンペに応募しないとはおかしな話である。例によって、単年度予算の枠のせいで、周知期間が短かったことは事実である。それが二九社と公開コンペにしては応募数が少なかった理由かもしれない。しかし、知らなかったから応募しなかったということは考えられないことだ。忙しすぎて人員を割けないというのであろうか。建設業界がそんなに景気がいいとは聞こえてこない。
もしかすると審査員の構成が影響するのであろうか。審査委員の顔ぶれによって求められる提案と当選可能性を読むというのは当然のことである。しかし、組織事務所が敬遠する審査委員会の構成とは一体なんだろう、と他人事ではない。建築界に奇妙な棲み分けがあるのだろうか。
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