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2023年7月1日土曜日

エコ・サイクル・アーキテクチャー,日刊建設工業新聞,19970331

エコ・サイクル・アーキテクチャー,日刊建設工業新聞,19970331


 エコ・サイクル・アーキテクチャー

 PLEA(パッシブ・アンド・ロウ・エナジー・アーキテクチャー)釧路国際会議(一月八日~一〇日)に出席する機会があった。出席するといっても、最終日の最後のシンポジウム「エコロジカルな建築」(司会:小玉祐一郎 問題提起者:ビヨン・ベルグ ヴァリス・ボカルダース 討論者:A.de ヘルデ、J.クック、A.トンバジス、岩村和夫、大野勝彦、野沢正光、布野修司)にコメンテーターとして出席しただけだから、全貌はとても把握するところではない。しかし、登録者数が一二〇〇名にもおよぶ大変な国際会議であり、今更ながらであるが、環境問題への関心の高さを思い知った。幸い天気には恵まれたのであるが、厳冬の釧路に集った多くの参加者の熱気に圧倒された。また、数多くの論文発表に大きな刺激を受けた。

 ベルグ氏はノルウエイの建築家で、生物学者も参加するガイア・グループを組織し、エコ・サイクル・ハウスの実現を目指す。総体的な生態原理に基づいて、住居を自然のサイクルと相互交渉するひとつの過程としてとらえようとしているのであるが、建築材料について絞った提起があった。興味深かったのは、モノマテリアルという概念である。モノマテリアルにも一次、二次が区別され、一次のものは木、藁、土など、要するに生物材料、自然材料である。二次モノマテリアルは、工業材料であるが単一素材からなるもの、鉄、ガラス、コンクリートなどである。厳密な定義については議論が必要であるが、基本はリサイクルが容易かどうかで材料を区分するのである。

 自然の生の材料であること、製造にエネルギーがかからないこと、公害を発生しないこと、フェイス・トゥー・フェイスの関係を基礎としてつくられること、という基本を踏まえて提案された木造住宅のモデルが興味深かった。全て木材を主体とするモノマテリアルでつくられ、手工具だけで組み立てられるのである。

 ヴォカルダー氏は、スウェーデンの建築家、研究者で、エコロジー学校の運動に取り組んでいる。学校施設をエコロジカルに設計計画することにおいて、環境教育をまさに実践しようというのである。いずれも、刺激的な報告であった。

 釧路が会場に選ばれたことが示すように、今回は、寒い地域の「エコロジカルな建築」について考えようということであった。そうした意味では、長年、東南アジアの居住問題を考えている筆者にはシンポジウムの席は、座り心地が悪かった。しかし、環境問題には、国際的な連帯が不可欠であり、南北問題を避けては通れない、というベルグ氏の発言もあって、「湿潤熱帯」では「エコロジカルな建築」の考え方も違うのではないか、といった発言をさせていただいた。高緯度では、ミニマルな建築がいい、というけれど、湿潤熱帯では、気積を大きくして断熱効果を上げるのが一般的である。実際、湿潤熱帯には伝統的民家には巨大な住宅が少なくないのである。小さい建築が少資源につながるというけれど、大きくつくって長く使う手もある。地域によって、エコ・サイクル・ハウスのモデルが違うのはその理念に照らして当然なのである。

 完全木造住宅のモデルはわかりやすいけれど、建材の地域循環はどのような規模において成立するのかも大テーマである。木材資源は日本でも豊富といっていいが、山を手入れする労働力がない。輸入材の方が安い、という現実をどう考えるか。建材をめぐる南北問題をどう考えるか。熱帯降雨林の破壊はどうすればいいのか。シンポジウムの席でいろいろ刺激を受けたのであるが、つい考えるのは東南アジアのことであった。実をいうと、J.シラス(スラバヤ工科大学)をはじめとするインドネシアの仲間たちと湿潤熱帯用のエコ・サイクル・ハウスのモデルを考えようとしているせいでもある。

 二一世紀をむかえて、爆発的な人口問題を抱え、食糧問題、エネルギー問題、資源問題に直面するのは、熱帯を中心とする発展途上地域である。経済発展とともにアセアン・テン地域にも急速にクーラーが普及しつつある。一体地球はどうなるのか、というわけであるが、クーラーを目一杯使う日本人の僕らがエコ・サイクル・ハウスを東南アジ諸国に押しつけるなど不遜の極みである。まず、隗よりはじめよとJ.シラス先生に怒られながら、暑い国のエコ原理を学ぼうと少しづつ勉強をはじめたところである。


 

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