このブログを検索

2023年7月23日日曜日

犯罪防止と建築,周縁から60,産経新聞文化欄,産経新聞,19901203

 犯罪防止と建築,周縁から60,産経新聞文化欄,産経新聞,19901203

60 建築と犯罪               

                布野修司

 

 ある県の警察本部から、建築界に、今後の新しい団地づくりや街並みの整備、住宅の新築、改築に際して、「犯罪のない安全な街づくり必携」を参照して欲しいとの要望が出されている。最近になってその要望書と必携を手にしたのであるが、建築と犯罪についていささか考えさせられた。

 犯罪に対する抑止機能の高い街並みは、第一に、その地域の住民には自分達の街という感じを抱かせ、外来者には遠慮感を抱かせる、領域性の高い街であり、第二に、いつどこで誰に見られているかわからないという感じを抱かせる、監視性の高い街であるという。そして、必携は、領域性、監視性のそれぞれを高めるための方策を列挙している。

 ざっとみてまず感じたのは、領域性を高めることと監視性を高めることは、場合によると矛盾しはしないかということである。宅地を道路より高くし、塀や生け垣で囲い、門を設け、窓に格子を付け、雨戸を付け、というのだが、領域的に閉じることは、その領域内に一旦入れば、逆に外部からの監視の眼からはのがれることになる。だから、必携は、塀にはできるだけ多くの開口部を設けるともいう。問題は、どれだけ閉じ、どれだけ開くか、そのバランスではないのか。

 必携はまた街並に見通しのきかない凹凸をできるだけ少なくするとか、団地内への入口をできるだけ少なくするとか、行き止まりの道路を多く設けるとか、いうのであるが、景観やサービス、他の防災などの側面を考えると一概にそうだといえない。考えるに、建築のあり方と犯罪発生の関係を立証するのは難しいのではないか。領域性とか監視性の問題は、まずはコミュニティーの問題であって建築の問題ではないのではないか。

 犯罪を前提として設計するとなると、日本の街や住まいは相当変わっていく筈だ。あるいは、日本も犯罪という点で欧米に近づきつつあることをこうした要望や必携は示しているのであろうか。



0 件のコメント:

コメントを投稿