風の通る家,周縁から63,産経新聞文化欄,産経新聞,19901231
63 台風 布野修司
今年は日本列島を襲った台風が実に多かった。とりわけ一一月末の台風には驚かされた。地球はやはりどこかおかしくなりつつあるのではないか、と思う。建築の内部空間は次第に人工環境化しつつあるのだけれど、都市や地球規模の環境は完全にコントロールすることはできない。台風はいまさらのようにそのことを思い知らせてくれる。
先頃、ビル風を防ぐために中程に風穴を設けた高層ビルが竣工して話題となった。超高層ビルが林立する地区を歩くとビル風は相当ひどい。ビル風が問題になって久しいけれど、現代都市は風のことを忘れつつあるような気がしないでもない。
伝統的な民家は、本来、風に対する備えをもっていた。台風銀座と呼ばれるような毎年台風が上陸するような地域では当然のことだ。防風林や石垣を設けたり、屋根に石を置いたり、瓦を風向きに合わせて左右違えて葺いたりしてきたのである。
極めて興味深いのは、そうした地域の住宅が、他の地域より必ずしも丈夫につくられているわけではないことだ。梁を二重にしたりして構造を強化する工夫もあるけれど、むしろ、家の周囲に樹木を植える効果が大きい。住宅の構造を強くするだけでは限界があるのだ。
強風に対するのと同様、さわやかな風をとりいれるためにも、住まいの周囲の環境が重要である。夏を旨とすべしという、日本の住まいは、もともと風が抜けるそうした構造をしていた筈だ。しかし、日本の、とりわけ都市の住居は、ますます自然の風とは無縁になりつつある。内に閉じ、内部だけを空調設備によって制御する、そんな考え方が支配的である。
地球規模の環境や都市全体を考えるとき、もう少し自然の風通しをよくすることが必要ではないか、と思う。台風が吹き荒れるのは困るのだけれど。
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