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2023年7月20日木曜日

サイト・スペシャリスト,周縁から58,産経新聞文化欄,産経新聞,19901105

サイト・スペシャリスト,周縁から58,産経新聞文化欄,産経新聞,19901105

58 サイト・スペシャリスト        布野修司

 

 サイト・スペシャリストという言葉がつくられようとしている。日本語にすれば現場専門技能家ということになろうか。耳慣れないのは当然である。まだ建築界のほんの一部で使われ始めたばかりだからである。

 サイト・スペシャリストという言葉をあえて用いようとしているのは、ゼネコン(総合建築業)に対してサブコン(下請建築業)と呼ばれる専門工事業者の集まりである。建築業界は重層的な下請構造からなっているのであるが、実際に現場を担っているのはサブコンである。3K(きたない、きけん、きつい)とか、6K(加えて、休日が少ない、給料が安い、暗い)とかいわれ、建設現場の人気は極めて悪い。若者の現場離れ、職人不足はマスコミでも大きく取り上げられるところだ。

 しかし、現場がなければどんな美しい建築作品もできるわけがない。現場が馬鹿にされるのは我慢がならない。現場で働く技能者の待遇を改善し、その重要性を訴えたいという思いがサイト・スペシャリストという言葉に込められているのである。

 図面を描くだけでふんぞりかえっている建築家は先生と呼ばれても現場では馬鹿にされる。現場を知らない建築家は建築家ではない。また、有能な現場専門技能家がいない建築に傑作はない。現場をまとめあげる能力や技能は大変なものである。しかし、その重要な職能を総称する言葉がない。個別でバラバラで、場合によると差別的な言葉が多い。

 もちろん、横文字にすればいいというわけではない。ファッショナブルなユニフォームをデザインすれば現場のイメージがあがるということではない。しかし、現場の仕事が尊敬に値し、社会的にも高い評価をうけ、それなりに高い報酬が得られるようになるとすれば、その職能にふさわしい名称が生み出される筈だ。サイト・スペシャリストという名称が一般化して行くかどうかはそうした意味で興味深いことである。



 

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