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2023年7月25日火曜日

ミニ地球,周縁から62,産経新聞文化欄,産経新聞,19901224

 ミニ地球,周縁から62,産経新聞文化欄,産経新聞,19901224

 62 ミニ地球              布野修司

 

  パオロ・ソレリがやってきた。「地球環境時代」を考えるシンポジウムへ出席するためである。パオロ・ソレリといえば、アリゾナの砂漠にアーコサンティーと呼ばれる都市を延々と建設していることで知られる。僕も十年ほど前に訪れたことがあるのであるが、そのスケールの大きさに度肝を抜かれた記憶がある。エコロジカルな観点から建築を考える巨匠だ。

 ところで、その同じアリゾナのツーソンに「バイオスフィア2」と呼ばれる「ミニ地球」がつくられ、八人の研究者が外部との接触を一切断って二年間暮らす実験が開始されたのだという。一年半ほど前、そうしたニュースを読んで興味深く思っていたのであるが、実際に実験が開始されたとなるとますます興味がつのる。

 「バイオスフィア2」とは、「第二の地球」という意味だ。建物の中には、砂漠やサバンナ、海や熱帯雨林、農地がつくられている。このミニ地球のなかに、世界各地の植物や小動物、昆虫が生息する。海のなかには魚もいる。そこで八人は、家畜を育て、耕作し、完全に自給自足の生活をするのである。

  パオロ・ソレリの試みが、雄大で厳しい自然のなかで生きるという素朴な実験であるのに対して、「バイオ・スフィア2」は、ハイテックな科学技術をベースとする壮大な実験である。

 果して、この実験は成功するのか。スペース・コロニーの建設や地球環境の保全の問題に多くのデータを得るのが目的なのであるが、建築の問題としても貴重である。もちろん、二年程度では、あくまで実験にすぎないとはいえる。広大な施設に、たった八人というのも問題かもしれない。しかし、様々な示唆が得られるかもしれない、そうした期待がある。エコロジカルにこの施設が自立できるとすれば、建築や都市についての考え方は大きく変わる筈なのである。


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