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2023年7月27日木曜日

違反建築,周縁から64,産経新聞文化欄,産経新聞,19910107

 違反建築,周縁から64,産経新聞文化欄,産経新聞,19910107


 64 駅前再開発              布野修司

 

 普段よく利用するJRの駅の駅前に違反建築がある。気づかない人も多いのであるが、建築基準法の用途地域制を知っている専門家であればすぐわかる。容積率および建ぺい率違反だ。通りかかる度に釈然としない。

 問題は、まず、その駅前が、駅前であるにも関わらず第一種住居専用地域ということにある。その駅ができたのは七三年のことだが、再開発を見越しての乱開発を避けるために市当局は用途地域を変更しなかったのである。

 それにも関わらず、スーパーなどが入る明らかに違反の二つのビルが建てられたのは何故か。建主にもおそらく言い分がある。駅前だから商業地域であってもおかしくない、いずれ用途地域が変更されるのであれば、先に建てたっていいではないか、ということなのであろう。

 しかし、違反は違反だ。建築基準法がザル法といわれてもしかたがない。実はこんなケースは多いのだ。何故、違反が黙認されているのか。駅前全体に再開発構想があるからである。皮肉なことに、その違反建築の隣に市の駅前周辺整備室があることから窺える。再開発をめぐって、もう随分もめているのである。再開発後に用途変更されれば違法性はなくなる。難しいところだ。

 これまたよく利用するとなりの駅の再開発も遅々として進まない。駅前の混雑が誰の眼にも明らかなのに、そのケースは何人かの地権者のゴネ得ねらいがみえみえだ。駅前の再開発はどこでも難しい。権利変換がスムースにいかないのだ。

 駅前という空間は、極めて公共性の高い空間である。単なる商業空間ではない。駅前が同じ様な表情につくられるのは、私の利益のみの追求がその背後にあるからかもしれない。それにしても、私利私欲のために再開発が遅れるとすればいささか不愉快だ。違反建築を毎日のように見ながら、釈然としない気分になるのは、駅前の一等地に対するやっかみもあるかもしれない。


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