このブログを検索

2023年7月29日土曜日

女性と建築,周縁から66,産経新聞文化欄,産経新聞,19910128

 女性と建築,周縁から66,産経新聞文化欄,産経新聞,19910128

 66 女性と建築             布野修司

 

 女性の建設労働者がこの間話題になっている。男女雇用機会均等法と現場の労働者不足を背景にしてのことだ。女性の鉄筋工のチームをつくったある工務店は応募者が殺到しているのだという。

  女性は建設現場には向かないというのが定説であったが、実際やってみるとそうでもない。作業能率は男性にまさるともおとらない。現場の機械化で、力仕事が必ずしもいらなくなったせいだ。大型クレーンを自在に扱う女性オペレーターも出現し始めている。実に格好いい。

 女性が現場に入り出すことによって現場は変わりつつある。まず、現場がきれいになる、喧嘩が減る、無茶が減って事故が少なくなる、そんな変化はすぐに現れるのだという。現場の魅力がないのは、現場の環境が快適でないことも大きいのである。

 労働者不足問題の解決を、外部にもとめること、すなわち、これまで現場の戦力と考えられなかった外国人や高齢者に期待することはいささか安易である。女性についてもそうだ。労働者不足の問題は、もう少し本質的である。問題の本質は若い人たちの新規参入であり、出生率が低下する中で、職人不足の問題は構造的だからである。

 しかし、労働者不足の問題と離れて、女性の建築界への進出はもっと歓迎されていい。もともと大学の建築学科は工学部のなかでは女子学生の数が多いのであるが、各大学ともこのところいっそう増えつつある。好ましい傾向だ。住まいの設計を考えても、女性の視点は欠かすことはできないのである。

 しかし、例えば、女流建築家というとまだまだ少ない。女性の社会進出を阻む一般的な社会環境に加えて現場が女性を排除してきたからである。数が少ないから、特定の女流建築家には光があたるのであるが、女性が建築界で活躍する裾野は全体的にみるとまだ狭い。建築界は、ここでも二重、三重に閉じているのである。




0 件のコメント:

コメントを投稿