地域職人学校,周縁から61,産経新聞文化欄,産経新聞,19901210
61 地域職人学校 布野修司
職人不足、建築技能者不足は建築界にとってますます深刻化しつつある。しかし、ではどうすればいいのか。方策は今のところまとまっていないのではないか。外国人労働者に頼ればいい、職人のいらない新たな建築工法を開発すればいい、という主張はあるのであるが、議論としてはいささかイージーだ。
自分たちの生活環境を形づくる、その実際の建設を直接担う職人さんたちを自ら養成訓練していく仕組みをもたなければ、建築文化の行く末は相当怪しい。何故、若者が職人になりたがらないか、それははっきりしている。今こそ新しい仕組みをつくるべきではないか。
例えば木造住宅を考えてみると、今なら伝統的な技術を教えうる職人さんたちは各地に存在するのであるが、もう五年もすればその伝達の場がほとんど失われてしまうのだ。
職業訓練校のような公的な機関に期待するのにも限界がある。大工技術のようなコースは、コンピューターを使うコースに置き換えられ、各地で閉鎖されつつあるのである。
そういう中で、地域で職人の養成訓練を行おうという試みがある。問題は、ただ教育訓練機関をつくって、建築技能者を養成すればいいというわけではないということだ。建築技能者がそれにふさわしい待遇を受け、生きていける条件が地域毎にできなければならない。そのためにはどうすればいいか。
かって、建築職人の養成訓練は、地域毎に行われてきた。徒弟制ということで、戦後は否定されてきたのだけれど、建築の技能というのは、やはり現場が基本ではないか。座学では限界がある。野の学校がどうしても必要だ。学校という施設をつくるより、師匠のいるところへ行って学べばいいのではないか。
地域でそんな師匠の野の教室を結ぶネットワークができないか、そしてそこで育った職人さんたちが一生地域で生きて行ける条件を創り出せないか、そんなことを少しずつ考え始めているところである。
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