都市デザイン賞の問題点,周縁から59,産経新聞文化欄,産経新聞,19901126
59 都市デザイン賞 布野修司
多くの都市で、毎年建てられる建築を対象として、都市デザイン賞、まちづくり景観賞、建築文化賞、街角スポット賞等々、様々に呼ばれる表彰制度が設けられ始めている。
日本建築学会賞のような作品賞と違って、そうした賞の場合、常に街全体との関係が問題となる。作品そのものを自立したものとして評価するのではなく、各都市の街づくりの方針に照らして評価が行われる。あるいは、作品の評価をめぐって街づくりの方向を見出していくというのが共通のテーマとなる。
継続的に、毎年、あるいは二年に一度、賞を出していく。そうした意味でも、評価の指針が共有されている必要がある。審査員の構成が変わるとよくあるのであるが、前の年と次の年の評価基準がまるっきり異なってしまうといささか問題なのである。しかし、一方、評価基準が固定的になると、街づくりのダイナミズムが失われてしまう恐れもある。よくあるのは、伝統的な建築様式や建築の地域性に拘りすぎる場合である。ある特定の傾向のみに偏った評価がなされると、応募も減るし、せっかくの賞なのに該当作品なし、ということになりかねない。そのあたりが難しい。
ほとんどの場合、賞といっても、多額の賞金や建築の維持費が出るわけではない。賞を与えられたのだけれど、もう壊されて跡形もないという例が実際にある。そうなるとなんのための賞か問われかねない。
建築の評価というのは、本来多様であるべきである。しかし、その多様性は、それぞれの都市の、それぞれの地区において、ゆるやかに統合される必要がある。そして、全体として、都市毎に独自の表現としての街並みが生み出されていくことが期待される。都市デザイン賞の試みは、市民を巻き込んだ、街づくりの方向をめぐる議論を続けていく場として大きな意味をもっている。全国同じような街並みは御免である。しかし、街並みは一朝一夕にできるものではない。歴史をかけた取り組みとして、表彰制度も粘り強く続けて欲しいと思う。
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