東日本大震災復旧復興支援部会・連続シンポジウム報告
「復興の原理としてのコミュニティ-オランダからの提言」
"The Dutch
Approach : integrated
framework as a principle for reconstruction
東日本大震災復旧復興支援部会は、オランダ大使館と共同主催(共催 アーキエイド ArchiAid)のかたちで、7月5日、建築会館大ホールにおいて、標記の第3回シンポジウムを開催した。以下に、経緯と議論の概要について報告したい。
本シンポジウムの開催は、オランダ大使館の強い働きかけが原動力となった。発災後いち早く完成した南三陸町志津川の番屋をオランダ大使館員が訪問、宮城大学の竹内泰准教授と会談、意見交換した結果、竹内准教授が日本建築学会を紹介したのが発端である。オランダからの支援のあり方について日本建築学会と相談したいということで、大使館に呼ばれて最初に議論したのは2011年の7月であった(布野部会長・宇野幹事参加)。その時点では具体的な話がまとまることはなかったのであるが、今年度に入って、再度会談の申し入れがあり、遅々として進まない復興計画に対して、オランダ人建築家、都市計画家を招いて被災地でワークショップを開催できないかという具体的提案があった。オランダ大使館は、並行して都市計画家協会、アーキエイドなど多方面に働きかけており、復旧復興支援部会のアドヴァイザリー・ボードのメンバーでもある山本理顕氏にも同様の申し入れがあった。被災地には様々な提案や働きかけがあり、混乱を招くことも大いに考えられ、被災地での開催は難しいのではないかと思われるが、とりあえず、東京でシンポジウムを開催して、その可能性を考えようということで一致するに至った。復旧復興部会にとって、興味深く思われたのが、オランダ大使館が是非とも紹介したいという「オランダ式アプローチ」なるものである。
幾度かのやりとりによってまとまったシンポジウムの主旨文は以下である。
「本シンポジウムは、復興まちづくりの何が問題なのかを具体的に明らかにし、どのような過程に基づく、どのような内容の意志決定がなされねばならないか、また、どのような「建築」がなさねればならないか、を考察することを課題とし、各専門分野の垣根を取り除いてプロジェクトを形成、実施するというオランダ式アプローチを学びながら、この課題を考えることを目的とするものである。またこの目的を達成するために、建築家はもとより、土木の専門家、都市計画の専門家、中央政府および地方の復興に関わる専門家そして民間企業のすべての方々に加わっていただき、被災地の未来を拓くため、英知を集めるきっかけになることを期待する。」
国、自治体の担当者の参加が不可欠というオランダ大使館の要請で、井上俊之国交省住宅局審議官、嶋田賢和釜石市副市長、大水敏弘国交省都市局市街地整備課の3氏に参加いただくことになった。アーキエイドから小嶋一浩氏(横浜国立大学)を代表として招き、パネル・ディスカッションのモデレーターを山本理顕氏が、総合司会を宇野求(建築家)復旧復興支援部会幹事が務めた。
和田章日本建築学会会長の開会挨拶、そして井上審議官による「復興まちづくり・住まいづくりに向けて」に続いて、第一部として、オランダ側からの基調講演を受けた。トン・フェンホーフェン(建築家、オランダ政府インフラストラクチャー主席アドヴァイザー)氏の「オランダ式アプローチ:安全、経済、景観の統合:あるいは土木と都市計画を如何に結合するかIntegrating safety, economy and landscape: the Dutch approach:how to combine civil engineering and city planning」とホス・ファン・アルペン(デルタ委員会事務局)氏の「水、洪水防御と空間計画:オランダの経験と実例Water, flood protection and spatial planning, experiences and examples
from the Netherlands」である。
トン・フェンホーフェン氏の講演タイトルに示されるテーマがまさにシンポジウムの核心である。
オランダ政府には空間計画に関する、建築、文化遺産、基幹設備と都市、景観と水管理をそれぞれ担当する4人のアドヴァイザーからなる諮問会議が設けられていること、総合的空間計画として、生業(経済、雇用)、ネットワーク(インフラストラクチャー、エネルギー供給、道路)、地盤(安全、防災)の3つのレイヤーによって空間計画が行われること、研究、設計、連携、対話の過程が長期的ヴィジョンに展開されることなど、興味深い仕組みが具体的な事例とともに提示された。ホス・ファン・アルペン氏の洪水対策を中心としたプレゼンテーションでは、同じように防護、土地利用、避難という3つのレイヤーによるリスク・マネージメントへのアプローチ、自然と共生する堤防建設などデルタ委員会を中心とする仕組みと具体的な事例が提示された。特に興味深かったのは、アトリエ型のワークショップが基本に置かれ、洪水対策について協働することが強調されたことである。
第二部においては、嶋田賢和(「岩手県釜石市の復興について」)、大水敏弘(「復興まちづくりの課題」)、小嶋一浩の各氏からの現場での体験に基づく報告を受けた後、専ら彼我の違いついて議論が展開された。日本とオランダの差はどこにあるのか、日本にもオランダに負けない技術があるにも関わらず、それが豊かな地域社会をつくりあげるのに使われないのは何故か、日本にも多くの人材がいるけれども何故使われないのか、住民との話し合いがなされないのは何故か、畳み掛けるようにパネル・ディスカッションをモデレートしたのは山本理顕氏である。すぐさま指摘されたのは、政府はあまりに縦割りであり、それぞれにマニュアルがつくられて、そのマニュアルと予算がセットになっていること、地方自治体はマニュアルに従うだけになっていること、予算を実行するために事業者をどう使うかのみが問題とされること、具体的に、復興計画が防潮堤、嵩上げ、区画整理といった事業のみで動いていること等々である。
オランダでは、国-州-町が日常的に一体化して計画立案し、実践していく仕組みがある。もちろん、オランダにも様々な問題があり、現在のような仕組みが作られたのであり、実際には様々な問題があるであろう。限られた時間では、細かい点まで確認はされなかったけれど具体的な仕組みについての質疑が積み重ねられた。密度の高いパネル・ディスカッションだったと思う。
全体として浮かび上がったのは、一言で言えば、日本には住民と話しながら町をつくりあげていく仕組みがないということである。コミュニティ・アーキテクト制をめぐる議論についてはさらに深めたいと思う。
復旧復興支援部会部会長 布野修司
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