アジア国際建築交流の新段階:第4回ISACS(タイ国際建築文化シンポジウム)報告,建築ジャーナル,201002
建築ジャーナル海外レポート 2010年2月号
アジア国際建築交流の新段階:第4回ISACS(タイ国際建築文化シンポジウム)報告
布野修司(滋賀県立大学)
2009年12月2~4日、タイのチェンマイChiang
Mai大学で開かれた第4回ISACSに基調講演者の一人として招かれて参加してきた。京都大学の布野研究室で共同研究者として一緒に学んだナウィット・オンサワンチャイNawit Ongsawanchai講師の強力な推薦による。3年振りに旧交を温めた。チェンマイは二度目であったが、3,000人の日本人が住む。気候のいい土地で老後を過ごす年金生活者が主体という。
ISACSとは、International
Symposium on Architecture and Culture in Suwannaphumの略称で、スワンナプームSuwannaphumとは、文字通りには「黄金の土地(国)」すなわちタイのことである。第4回ということであるが、「多様性の総合:反省、再解釈、再配置Integrating Diversity: Reflection, Reinterpretation and Reposition」がシンポジウムの統一テーマである。初日に、タイの著名な文化人類学者アナン・ガンジャナパンAnan Ganjanapan教授から、タイにおける諸民族をめぐって、あるいはタイ族をめぐって、タイのナショナリズム、少数民族問題、観光とエスニシティなど鋭い問題提起があった。二日目に「地域のヴァナキュラーな価値に基づく建築を目指してーアジア都市建築研究のパラダイムをめぐってー」と題して話した。
もう30年もアジアを歩いてきたのであるが、アジアの建築界も大きく変わったと思う。タイでこうした国際シンポジウムが開かれるようになるとは、かつては想像も出来なかったことである。このISACSというのは、チェンマイ大学の他、シルパコンSilpakorn大学、キング・モンクット工業大学 King Mongkut’s Institute of Technology Ladkrabung、コン・ケーンKhon Kaen大学、ナレスアンNaresuan大学の5大学の共催の形であるが、他の大学からの参加者もある。論文は英文で審査があり、1題30分の発表と議論である。タイの建築系大学というと、チュラロンコーンChulalonkorn大学とタマサートThamasat大学があるが、この両大学は独自の論文ジャーナルを持っている。タイにも様々な事情がある。欧米で学んだ若い先生方も数多く、流暢な英語が飛び交う。日本で学んだ研究者も基本的には英語がベースである。ナウィット講師の教え子はヴェトナム人であり、ミャンマー人であり、ラオス人である。
国際交流プログラムに関しては、日本建築学会に、アジアの国際建築交流シンポジウムISAIA(International Symposium on Architectural Interexchange in Asia)があり、JAABE(Journal of Asian Architecture and
Building Engineering)がある。中国・韓国・日本という漢字文化圏をベースとした交流が主で、その拡大への展望を欠いてきた。ISACSは、今回の運営会議でマレーシア、シンガポールに連携を拡大することを決定したという。UIAやJABEEの建築家資格などに振り回されている間に、日本だけが取り残されていく、そんな危機意識を否応なくもたされた。
ほぼ正方形の形をしたチェンマイは実に興味深い古都である。シンポジウムの合間をぬってチェンマイをじっくり見せてもらった。歴史的な古都であるが、古い城壁を不法占拠して住む人々がある。チェンマイ遷都以前の古代都市ウィアン・クム・カムWiang Kum Kamの遺構の保存状態はそうよくない。3日目のエクスカーションで、近郊の伝統的な集落トン・ヘTon He村を見せてもらった。毎年のように洪水に悩んでいる。タイでは、トン・ヘ村のような伝統的集落がいま急速に失われつつある。発表を聞きながら、また、以上のような実態を見聞きしながら、連携してやるべきことが数多くあると、いまさらのように思った。

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