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2021年8月5日木曜日

見聞録11  自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作 熊本農業大学校学生寮  熊本県 設計 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫共同体

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 自然素材の魅力  誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作

 熊本農業大学校学生寮  熊本県 設計 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫共同体



 全体は懐かしい木造校舎のようだ。工事の時の残土を積み上げた小さな丘の割れ目を抜けると、生木の皮を剥がしただけの木が5本、入口の庇を突き抜けて建っていて、不思議な雰囲気を醸し出している。手作りの雨樋が楽しげだ。仕上げ材料は基本的に木と土、布と縄である。照明器具など、随所に手作りの味がある。自然(生物)材料を徹底的に用いる、というのがこの建築の方針である。

 設計者は建築探偵、藤森照信をチーフにする地元の建築家共同体だ。熊本アートポリス事業として藤森が選ばれ、この建築のために地域の精鋭が招待されたユニークな試みだ。自宅「タンポポ・ハウス」の設計で建築家としてデビューして以来、藤森の作品は数作になるが、自然材料を基本とするのは一貫している。

 工業材料が溢れ、世界中が同じような建築物で埋め尽くされる中で、可能な限り生の素材を使おうという単純な主張は、素朴な共感を呼んでいるように思う。しかし、実際は大変である。生木は捻れ、割れ、容易に人の言うことを効かないのである。現場は悪戦苦闘である。普通の建築家であればクレームに耐えられないかもしれない。

 しかし、出来上がった空間は絶妙だ。圧巻は食堂である。無骨な生木が林立して森のようだ。さすが当代の目利きの作品だと唸った。建築がうまくなるためにはとにかく建築を見てまわることである、とつくづく思う。

 建物を上から見ると、インベーダーゲームのキャラクターのようで、異世界から舞い降りたかのようだ。建築の訓練は受けたといえ、藤森の本領は建築史であって、建築のプロから見れば素人である。この建築はおよそ洗練とか、熟練とかからは遠い。下手くそといってもいい。しかし、出来上がった空間には建築の原点に関わる迫力がある。素朴に建てよ、誰でも建築家であり得るのだ、そんな藤森の声が聞こえるような気がしてくる。

      









➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

2021年8月4日水曜日

見聞録10 縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化

   三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 


 小さな芝生の丸い岡に、大中小いくつかのコンクリートの楕円の筒が突き刺さっている。周囲をめぐると筒が様々に重なり合って表情を変える。全体は岡に埋め込まれ、建物そのものによって自己主張するところがない。正面のない建築である。

 まるで円墳のようだ。古代の越の国は、出雲とともに四隅突出型古墳が出土する。すなわち大和とは異なった文化圏があったことが知られる。しかし、何も古墳をイメージしたわけではない。ここに収められるのは、古墳時代にはるかに先立つ縄文時代の遺物だ。福井県三方町には鳥浜貝塚という国内屈指の縄文遺跡がある。その遺跡を縄文の森に埋めるようにつくられたのがこの建築である。

 平面の形は三重の楕円形をしている。一番奥の楕円が最大の筒で、映像シアターになっている。次の楕円が縄文ホールと呼ばれる主展示室で、いくつもの丸い筒が巨大な樹木のように上から降りてくる。一番大きな楕円の岡に楔形の切り込みがつくられており、人々は、その縄文の森を模した空間に誘われる、そんな仕掛けだ。小さな筒は換気塔と光の塔である。全体を土と芝生で覆うことによって、光をどうとるかが大きなテーマになる。建築家の腕の見せどころである。

 全体の形は背後の山によく合う。土と芝生は断熱にも大きな役割を担う。通風のシステムもよく考えられている。何より楽しげなのは、この岡にどこからでも自由に登れることである。天候がいい季節には子どもたちが鈴なりになるのだという。

 こうした全体を土で覆う建築はこれまでもなくはない。そうした中でも、テーマといい、立地といい、空間構成といい、なんとなくぴったりとくる作品だ。屋上緑化、壁面緑化ということで、こうした建築のあり方はさらに様々に追求されるだろうが、どんな建築でも土や緑で覆うというわけにはいくまい。問題は、本来の森をとりもどすことである。







➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

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❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

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2021年8月3日火曜日

見聞録09 笑う住宅 くねって、捻(ひね)って、捩(よじ)って 屈折住宅   愛知県三河安城  竹山聖+アモルフ 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 笑う住宅  くねって、捻(ひね)って、捩(よじ)って

   屈折住宅 

 愛知県三河安城

 竹山聖+アモルフ 設計

 

 新幹線の車窓から眺める市街地の風景はどこも変わり映えがしない。似たような戸建て住宅の家並みが続いて、マッチ箱だの鶏小屋だのと評される。実際、日本の住宅というのはどこでもワンパターンだ。nLDKと聞いて、住所を知ればなんとなくわかってしまう。同じように工業材料で造られ、地区によって建物の高さや建ぺい率、容積率が決められているから日本中の住宅地の風景が似てくるは当然でもある。

 そんな住宅地の中でこの住宅は一風変わっている。腰をくねって今にも倒れそうである。平面的にも折れていて、側面の壁も編に傾斜している。よくよく見ていると可笑しい。腹を捩(よじ)って笑っているようだ。

 建築家は竹山聖。手堅いディテール(収まりの詳細)で知られる。殊更気を衒(てら)うつもりはなく、ちょっと捻(ひね)るだけで新しい空間がつくれることを示したかったという。クライアント(施主)は独身で、空間的には多少の余裕もあった。

 捩れた箱と鉄筋コンクリートの塔、全体は二つの棟からなる。錆びた鉄の扉を開けて中に入ると、基本的に二階まで吹き抜けた、くねった空間がある。奥にダイニング・キッチンが置かれ、その上にある二階の寝室には、傾げた空間をぐるっと回って行く。吹き抜けの空間に接する鉄筋コンクリート造の別棟の一階には茶室(和室)、三階に浴室が配されている。

 捩れた空間に、様々な光が落ちる。不思議な空間が味わえる。水や白石、竹など、素材の配し方も巧みだ。贅沢と言えば贅沢だ。

 高齢化、少子化が進み、日本の家族のあり方は多様化しつつある。確実なのは単身者が増えることである。コレクティブ・ハウス(グループホーム)のような集合形式が必要とされる一方、こうしたゆとりのある単身者の住宅が日本の住宅地の風景を変えて行くのであろうか。







 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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2021年8月2日月曜日

見聞録08 木匠塾の目指すもの ざらざら、ぼこぼこの素材感  朝日町エコミュージアム コアセンター創遊館 二〇〇〇年 山形県朝日町 元倉真琴+スタジオ建築計画 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

   木匠塾の目指すもの  ざらざら、ぼこぼこの素材感

 朝日町エコミュージアム コアセンター創遊館 二〇〇〇年 山形県朝日町 元倉真琴+スタジオ建築計画 設計

 


 

 「木匠塾」という、毎夏、建築系の学生が樹木や木造建築について学ぶ集いがある。本拠地は、岐阜県の加子母村に置かれているが、奈良県の川上村や京都府の美山町などにも広がりつつある。

 秋田県の角館町を中心に「東北木匠塾」が設立されたのは三年ほど前のことだ。その「東北木匠塾」が今夏は山形県の五十沢で開かれた。学生たちは、色漆喰で絵を描く鏝絵(こてえ)を競ったり、茅の葺き代え、炭焼き、草鞋(ぞうり)編みなどに実に喜々として取り組んだ。少し前の日本にタイムスリップしたかのようである。自然との親密な関係を維持する場所はまだまだ日本にはある。

 近くに「まち全体がエコ・ミュージアム」という考えを「まちづくり」の基本に据えている町があるというので行ってみると、田圃の中に一風変わった建物があった。

  町役場などが建つ大通りから見るとモダンな表情をしているけれど、背後に回ると、屋根は、後の里山に向かって大きく傾斜し、芝生で覆われている。なるほど、こうした景観への配慮もあるのか。

 何よりも惹きつけられたのがみたこともないコンクリートの仕上げだ。土のようでやわらかで陰影がある。打ち放しコンクリートが近代建築の美学だ。かつては型枠の木目が残ったが、随分奇麗に打てるようになった。しかし、ここでは不規則にぼこぼこしている。

 エキスバンドメタルという穴の空いた薄い鉄板を型枠に用いたものだ。この仕上げは内部も同じである。内装には節だらけの杉板も使われている。空間構成の全体は端正にまとまっており、そつがないが、「ざらざら」「ぼこぼこ」した質感が意図的に求められている。

 確かに、全て工場生産された「つるつる」「ぴかぴか」の材料は、エコ・ミュージアムをうたう町には似合わない。身近な自然素材を見直し、現場の創意工夫で建築をつくる、それは「木匠塾」の目指すところでもある。

 




➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

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2021年8月1日日曜日

見聞録07 知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」  一九六七年 兵庫県福良町(淡路島)

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  知られざるモニュメント

  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」  一九六七年 兵庫県福良町(淡路島)

 布野修司

 


 今や建築家としてもデビューを遂げた建築探偵藤森照信(東大教授)から、瀬戸内の島に丹下健三の未発表作品があると聞いたのは二年ほど前のことである。スライドを見せられ、へぇーと驚いた。丹下健三と言えば、日本を代表する建築家であり、その作品は常に話題を呼んできたから、未発表作品があるとは俄に信じられなかったのである。

 たまたま鳴門大橋を渡っていて思い出した。遠くの山の上に三角形の塔が見える。尋ねると、「「若人の広場」です、丹下さんの設計ですよ」。地元ではよく知られていた。

  マッシブ(量塊的)な粗石積みの展示施設は、阪神淡路大震災でダメージを受け、閉鎖中であった。石積みの丹下作品など他にはない、と我が目を疑う。しかし、設計計画は確かに丹下流である。軸線を明確に設定しながら、微妙に視線をずらす仕掛けがある。屋上庭園、広場、モニュメントへ向かう通路が巧みに配されている。

 竣工が一九六七年と知って、大いに混乱する。六〇年代は丹下の全盛であり、一方で、代々木の国立屋内競技場(一九六四年)、山梨文化会館(一九六六年)など、建築構造技術を駆使した新たな表現が次々と生み出されているからである。未来都市を目指した大阪万国博の会場設計も既に進められていた。粗石積みの建築は如何にもプリミティブだ。

 何故、この動員学徒のための記念碑が建築界で発表されなかったのかは何となくわかる。第二次世界大戦中(一九四二年)の大東亜記念営造物コンペ(設計競技)に一等入選することによってデビューした丹下の戦後の「転向」を告発する論調が当時建築界では支配的であったからである。

 しかし、この作品の「発見」によって浮かび上がるのはむしろ、丹下健三における戦前戦後における一貫性ではないか。既にそうした指摘はあるが、日本の近代建築の歴史に一石を投じる「発見」となることは間違いない。

 


     



➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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2021年7月31日土曜日

見聞録06 空調を使わないビル エコ・オフィス  ムナラ・メシニアガ・ビル クアラルンプール郊外 建築家:ケン・ヤング

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  空調を使わないビル  エコ・オフィス

 ムナラ・メシニアガ・ビル クアラルンプール郊外 建築家:ケン・ヤング

 


 一風変わったビルだ。円筒形は珍しくないが、所々に窪みがある。よく見ると凹(へこ)んだ空間は螺旋状になっていて、空中に樹木が階段状に植わっている。低層部は半分芝生を植えた屋根で覆われ、屋上には模型飛行機のような形に鉄骨が組まれている。

 ムナラ・メシニアガ・ビル。マレーシアの首都クアラルンプールの中央駅から西南へ二〇分ほど行った郊外にこのビルは建っている。建築家はケン・ヤング。ケンブリッジ大学で博士号をとった学者建築家である。一九九〇年代初頭に彼の名を一躍有名にしたのがこの一四階建てのオフィス・ビルだ。

 一言で言えば、「空調を使わないビル」というのが思想である。いかに自然の風を取り入れるか、その工夫が螺旋状の通風階段である。屋根の鉄骨は輻射熱を防ぐ装置である。樹木や芝生は断熱効果を狙っている。理論的な裏付けをもった大胆な挑戦である。

 二〇年ぶりに訪れたクアラルンプールは思わず絶句するほどの変わり様であった。新都心には、世界一の高さ(四五二メートル)を誇るペトロナス・ツイン・タワー(シーザ・ペリ設計、一九九八年)が聳える。そして、思い思いの形を競うようにビルがにょきにょきと建っている。そうした中で、ケン・ヤングのビルは群を抜いている。二七階建てのセントラル・プラザ(一九九六年)、二一階建てのムナラUMNOビル(一九九七年)も、風の通り抜ける外部空間を大胆に取り入れる同じ思想に基づくデザインだ。

 高気密、高断熱というのが日本では常識である。しかし、空調を全く使わないとしたらどうか。ケン・ヤングのビルはひとつの方向を示している。圧倒的に人口が増え続ける熱帯地方で、クーラーが一般的になると大変なエネルギーが必要になる。しかし、それを指摘しながら、空調を使い続けるのは身勝手だ。日本でも地球環境時代に相応しい全く新たなビルが生み出されてしかるべきである。

 



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2021年7月30日金曜日

見聞録05 出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統

  出雲大社の柱根

 


出雲大社の境内から、昨年、柱三本を束ねた巨大な柱の根元が発掘されて、いささか興奮している。出雲に生まれたこともあるが、日本の木造建築の伝統に伊勢神宮などは別の系譜がよりはっきりと見えてきたからである。仏教建築伝来以前の日本建築の古式を伝えるのは神社建築というが、その原型は必ずしもわかっていないのである。

 出雲大社(杵築大社)の言い伝えとして、古代には高さが三二丈、あるいは一六丈(四八メートル)あったとされる。現状は八丈だ。また、平安時代、天禄元年(九七〇年)に源為憲のつくった『口遊(くちずさみ)』に「雲太、和二、京三」とある。出雲大社が一番、二番が大和の東大寺大仏殿、三番が平安京大極殿という意味だ。東大寺大仏殿が一五丈だから、一六丈でもおかしくない。さらに、高すぎて度々転倒したという記録が残されている。建築史学の泰斗、福山敏男らによって復元案が作られ、技術的可能性も検討されてきた。

 今回の発見が衝撃的だったのは、柱三本束ねる形式が、出雲国造千家家に伝わる『金輪御造営差図』と同じだからである。柱を金輪で固めることは東大寺でも行われている。東大寺の場合、集成材だけれど、出雲大社は三本をそのまま束ねて豪快である。 

 『金輪御造営差図』には「引橋長一町」とある。一町は約一〇九メートルだ。これだけの階段が果たしてあったのか。過日、同じ大社造りの神魂神社(国宝、松江市)での結婚式に参列する機会があり、ふと思った。急な階段を上がって本殿がある。この階段を含めて考えると同じような形式となるのではないか。探してみると出雲には、急な階段の上の小高い丘の上に本殿を頂く形式が久武神社(斐川町出西)など他にもある。

 三二丈は本殿背後の八雲山だという説がある。しかし、一六丈の神殿はありうるのではないか。階段を支えた柱跡を掘ってみるわけにはいかないものか。




 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011


❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

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❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

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2021年7月29日木曜日

見聞録04 緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質   淡路夢舞台 安藤忠雄

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

   緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質

  淡路夢舞台 安藤忠雄      兵庫県淡路島

 


 会期半ばを過ぎた淡路花博(ジャパン・フローラ二〇〇〇、九月一七日まで)を一日楽しんだ。博覧会そのものにはさしたる期待はなかった。未来都市のイメージを競った大阪万博(一九七〇年)が建築が主役でありえた最初で最後の博覧会である。沖縄海洋博(一九七五年)も筑波科学技術博(一九八五年)も、そのイメージを超えることはなかった。メインゲート付近に並ぶ白いテントはまさに予想通りだった。とは言え、今回の主役は花だ。折からのガーデニング・ブームで大変な盛況である。イヴェントとしては大成功だという。

 自然の再生をうたう会場に溢れる擬石や擬木、造花にいささか辟易しながら、夢舞台ゾーンに向かうと、今を時めく安藤忠雄ワールドである。野外劇場、「奇跡の星の植物園」と題された温室、百段園と称した花壇、主立った建物は全て彼の手になる。

 会場はかつての灘山だ。京阪神臨海部の埋め立てのために大量の土砂が採掘されて無惨な姿になった。その禿げ山に自然を蘇らせるのが花博の真のテーマだ。石灰岩の採掘で荒廃した山を蘇らせたバンクーバーのブッチャート・ガーデンがモデルだ。ジオウエーブ工法というのだという。緑の山が再生されようとしていた。まずは壮大な実験に敬意を表する。日本中の禿げ山、コンクリートで固めた醜悪な崖面も即刻緑に復元すべきだ。

 安藤は一貫して自然との共生をうたう。しかし、彼は積極的に緑を取り込むことはしない。むしろ、自然をどう見せるか、自然と人工物である建築とをどう際だたせるかに意が用いられる。コンクリートとガラスと水の絶妙の配列が全体を形作る。圧巻は水面の下に敷かれた煌めく百万枚ものホタテ貝だ。

 本質的に、自然を傷つけることによって建築は成り立つ。傷つけて癒す、矛盾に充ちた行為だ。だから安易に建築に自然を取り入れればいいというわけではない。安藤は建築の本質を直感的に知っているのである。


           





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