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2021年7月29日木曜日

見聞録04 緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質   淡路夢舞台 安藤忠雄

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

   緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質

  淡路夢舞台 安藤忠雄      兵庫県淡路島

 


 会期半ばを過ぎた淡路花博(ジャパン・フローラ二〇〇〇、九月一七日まで)を一日楽しんだ。博覧会そのものにはさしたる期待はなかった。未来都市のイメージを競った大阪万博(一九七〇年)が建築が主役でありえた最初で最後の博覧会である。沖縄海洋博(一九七五年)も筑波科学技術博(一九八五年)も、そのイメージを超えることはなかった。メインゲート付近に並ぶ白いテントはまさに予想通りだった。とは言え、今回の主役は花だ。折からのガーデニング・ブームで大変な盛況である。イヴェントとしては大成功だという。

 自然の再生をうたう会場に溢れる擬石や擬木、造花にいささか辟易しながら、夢舞台ゾーンに向かうと、今を時めく安藤忠雄ワールドである。野外劇場、「奇跡の星の植物園」と題された温室、百段園と称した花壇、主立った建物は全て彼の手になる。

 会場はかつての灘山だ。京阪神臨海部の埋め立てのために大量の土砂が採掘されて無惨な姿になった。その禿げ山に自然を蘇らせるのが花博の真のテーマだ。石灰岩の採掘で荒廃した山を蘇らせたバンクーバーのブッチャート・ガーデンがモデルだ。ジオウエーブ工法というのだという。緑の山が再生されようとしていた。まずは壮大な実験に敬意を表する。日本中の禿げ山、コンクリートで固めた醜悪な崖面も即刻緑に復元すべきだ。

 安藤は一貫して自然との共生をうたう。しかし、彼は積極的に緑を取り込むことはしない。むしろ、自然をどう見せるか、自然と人工物である建築とをどう際だたせるかに意が用いられる。コンクリートとガラスと水の絶妙の配列が全体を形作る。圧巻は水面の下に敷かれた煌めく百万枚ものホタテ貝だ。

 本質的に、自然を傷つけることによって建築は成り立つ。傷つけて癒す、矛盾に充ちた行為だ。だから安易に建築に自然を取り入れればいいというわけではない。安藤は建築の本質を直感的に知っているのである。


           





➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010


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❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

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