アンベール城の鏡の間 INAX
布野修司
インド・ラージャスターンの州都ジャイプルは、別名ピンク・シティという。町中が赤砂岩色をしているからである。18世紀前半に、すぐれたマハラジャ(藩王)であり、数学者であり、天文学者でもあったジャイ・シンⅡ世によって建設された計画都市だ。町の中央に天文台(ジャンタル・マンタル)が置かれているように、独特のコスモロジー(宇宙観)に基づいたグリッド・プランが面白くてしばらく通った。実に活気に満ちた魅力的な町だ。
そのジャイプルの北に、デリーへの街道が通る険しい峡谷を睨んだ城塞がある。ジャイ・シンⅠ世が建てた華麗な城、アンベール城である。ジャイ・シンⅡ世はここで生まれた。
六代皇帝アウラングゼーブが没し(1707年)、ムガール帝国が衰退の坂を転げようとするとき、その栄光を引き継ぐかのような華麗な建築をつくりだしたのがジャイ・シン親子であった。
めくるめくようなタイルの饗宴である。鏡が多用されているからであろうか、切り立つ山岳城塞という立地のせいであろうか、謁見の間の意匠はデリーやアグラの宮殿よりも幻想的に感じられる。ペルシャ風の庭園が設えられており、ペルシャの影響が見られるのはいうまでもないが、ラージプートの建築的伝統、すなわちヒンドゥー芸術の臭いも濃厚である。あるいは、ムガール・イスラーム建築のバロック化というべきか。
タイルの技術がイランのカーシャン地方から東西にひろまったことはよく知られているが、インドの石造の伝統においては当然表現は異なってくる。赤砂岩、白大理石をベースとするタージマハールを思い起こしてみればいい。細かい装飾で全ての壁面が覆われるようになる傑作はアグラのイティマード・アッダウラ廟であろうか。アンベール城のタイル装飾はその延長にあるようにも見える。
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