21世紀のユートピア 都市再生という課題(7)「「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スターバックス」に 超高層の谷間に「里弄住宅」 上海 新天地」,日刊建設工業新聞,2002年6月15日
連載
二一世紀のユートピア・・・都市再生という課題⑦
都市再生とは何か。何を再生するのか。都市再生デザインの行方を探る
上海 新天地
「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スターバックス」に
超高層の谷間に「里弄住宅」
多彩な都市の貌
布野修司
日本建築学会のアジア建築交流委員会を代表して、この九月重慶で行われる第四回「アジア建築交流国際シンポジウム」について中国建築学会との事前打ち合わせのために中国へ行ってきた。まず、降り立ったのは上海である。中国側を代表して基調講演を行う同済大学の鄭先生に合うのが目的であった。
上海は、おそろしく元気なまちだ。浦東新区に「東方明珠電視塔」など超高層が林立する様は壮観である。超高層の数では東京も脱帽であろう。
上海につくと念願の外灘(バンド)の和平飯店に宿泊。和平飯店は南楼と北楼からなるが、宿泊したのは緑の三角屋根の北楼である。外灘の夜景は上海のもうひとつの貌である。
観光客でひどく混んでいて、予約で満杯だという。情けないことに和平飯店は一日限りで宿替えとなった。福州路に面した全館本屋の上海書城のすぐ近くの上海大都市酒店がとれた。ほぼ上海の中心と言っていいだが、部屋から眺めると眼下に一九二〇年代から三〇年代に開発された里弄(りろう)住宅(石窟門ともいう)がびっしり並んでいる。超高層が林立する谷間に低層の居住区がまだまだ点々と存在していることを知って、なんとなくほっとする。里弄住宅もまた上海の貌である。どんな都市であれ、超高層だけではなりたたない。超高層を支え、その空間をサーブする層がどこにどのように住むのかが共通の問題である。
まずは、人民広場にある上海城市規画展示館に出掛けて上海の都市計画の現況について情報収集を行う。圧巻はワンフロア全体に置かれた上海の模型であった。超高層がヴァナキュラー化しているというのは嘘ではない。二〇一〇年の上海博覧会(二〇〇二年末決定予定)には六ケ国からの提案があり、日本からRIAが参加していた。上海の歴史もよくわかるし、上海城市規画展示館はよくできている。その後、同済大学へ赴き、鄭先生と懇談する。鄭先生は中国建築学会副理事長で、上海建築学会理事長、中国科学院院士、上海市規画委員会城市空間与環境事業委員会主任、同済大学建築与城市空間研究所長である。肩書きを並べるだけでそのポジションがわかるだろう。別れ際に何処を見たらいいかと尋ねると、上海のニュースポットとして「新天地」をみろとおっしゃる。早速出掛けたのは言うまでもない。
「新天地」は、人民公園の西側を南に下がった廬湾区の一画にあった。ガイドブックには「一大会址」とある。「一大会址」とは、中国共産党第一次全国代表大会会址の略である。一九二一年七月、当時フランス租界であったこの場所、李漢俊(後に脱党)の住宅に毛沢東ら一三名が集まったのである。一九世紀半ばに住宅地として開発された地区で、煉瓦造の建物が建ち並んでいた。
心底仰天したのは、「一大会址」に「スターバックス」が入っていたことだ。
煉瓦造の住宅に次々と手が加えられ、洒落たブティックやレストランに変貌しつつあった。香港のディベロッパーの手になるが、新旧の取り合わせのデザインがいかにも受けそうな雰囲気を既に醸し出していた。未だ工事中なのだが、既に観光名所になりつつあるらしく、バスガイドが観光客を引き連れて巡っている。まさに「新天地」として、若い世代を惹きつけるのは間違いない。
「新天地」だけではない。蒋介石夫人の宋美齢が使った書斎(宋慶齢故居)は、「カフェ・アールデコ・ガーデン」となっている。かつて英国人の屋敷であった瑞金賓館はアジア・レストランに変貌している。租界建築が次々にリニューアルされているのも上海のひとつの貌である。
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