このブログを検索

2021年7月30日金曜日

見聞録05 出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統

  出雲大社の柱根

 


出雲大社の境内から、昨年、柱三本を束ねた巨大な柱の根元が発掘されて、いささか興奮している。出雲に生まれたこともあるが、日本の木造建築の伝統に伊勢神宮などは別の系譜がよりはっきりと見えてきたからである。仏教建築伝来以前の日本建築の古式を伝えるのは神社建築というが、その原型は必ずしもわかっていないのである。

 出雲大社(杵築大社)の言い伝えとして、古代には高さが三二丈、あるいは一六丈(四八メートル)あったとされる。現状は八丈だ。また、平安時代、天禄元年(九七〇年)に源為憲のつくった『口遊(くちずさみ)』に「雲太、和二、京三」とある。出雲大社が一番、二番が大和の東大寺大仏殿、三番が平安京大極殿という意味だ。東大寺大仏殿が一五丈だから、一六丈でもおかしくない。さらに、高すぎて度々転倒したという記録が残されている。建築史学の泰斗、福山敏男らによって復元案が作られ、技術的可能性も検討されてきた。

 今回の発見が衝撃的だったのは、柱三本束ねる形式が、出雲国造千家家に伝わる『金輪御造営差図』と同じだからである。柱を金輪で固めることは東大寺でも行われている。東大寺の場合、集成材だけれど、出雲大社は三本をそのまま束ねて豪快である。 

 『金輪御造営差図』には「引橋長一町」とある。一町は約一〇九メートルだ。これだけの階段が果たしてあったのか。過日、同じ大社造りの神魂神社(国宝、松江市)での結婚式に参列する機会があり、ふと思った。急な階段を上がって本殿がある。この階段を含めて考えると同じような形式となるのではないか。探してみると出雲には、急な階段の上の小高い丘の上に本殿を頂く形式が久武神社(斐川町出西)など他にもある。

 三二丈は本殿背後の八雲山だという説がある。しかし、一六丈の神殿はありうるのではないか。階段を支えた柱跡を掘ってみるわけにはいかないものか。




 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011


❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

0 件のコメント:

コメントを投稿