布野修司 学芸=「見聞録」連載全21回 共同通信 2000年8月~2002年4月
一見何の変哲もない小屋に見える。だが、建築家の大いなる思いが込められた小屋だ。
この三月、中央研究院での講義と震災復興の調査を兼ねて台湾に出かけた。三月十八日は総統選投票日。二十一日は大地震からちょうど半年になる。投票日直前、李遠哲中央研究院院長が陳水扁候補を支持して辞任、政治的緊張の高まりの中での訪台となった。
台風の目となったノーベル化学賞受賞者、李遠哲氏は社区営造学会会長でもある。社区とはコミュニティー(地域社会)のことだ。この間の社区総体営造(まちづくり)運動を精力的にリードしてきた。台湾大地震後は、全国民間災後重建連盟の理事長をつとめる。
中寮、集集、長寮尾、埔里と社区営造学会が支援する地区を中心に回った。びっくりするのは山の樹木がすっかりずり落ちて黄色い山肌が所々あらわになっていることだ。農村集落が広範に被害を受けた。都市直下型だったら、死者 二千人ではすまなかったろう。
それぞれに興味深い復興の動きがあった。なかでも引きつけられたのが、この小屋、日月潭のタオ族のための仮設住宅であった。設計は建築家謝英俊。現場に事務所を移して陣頭指揮を執る。彼がバイブルにしたのが千千岩助太郎の「台湾高砂族の住家」(一九六〇年)だ。原住民の伝統文化をどう継承するをテーマとし、大いに学んだという。
ローコストだから、軽量鉄骨の骨組みに竹で屋根、壁を組むシンプルな構法だ。これだと建設に原住民が参加でき、日当も手に入る。鉄板の屋根や壁より暖かみがある。原住民にとっては単に住空間があればいいというわけではない。祭祀(さいし)のための空間も必要だ。機械的に棟を並べるのではなく共用の広場がきちんと設けられている。
布野修司 学芸=「見聞録」連載全21回 共同通信 2000年8月~2002年4月
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21
⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
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