布野修司 学芸=「見聞録」連載全21回 共同通信 2000年8月~2002年4月
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
石井の家 徳島県名西郡石井町
設計 新居照和・ヴァサンティ
写真 北田英治
四国山地と讃岐山脈に挟まれ、吉野川はゆったりと西から東へ流れている。徳島は、第十堰問題で揺れているけれど、流域にはのどかな田園風景が広がる。そんな中にこの瀟洒な住宅は建っている。
黒い壁に銀色の屋根、真っ赤な玄関、二階の大きな窓、一際目立つ。しかし、他を圧して自己主張しているわけではない。むしろ、辺りの風景に溶け込んで見える。緩やかに沿った屋根は後ろの山並みを明らかに意識したものだ。垣根がないから実に開放的だ。
二階まで大きく吹き抜けた居間が気持ちいい。大きな窓は雄大な山並みを毎日楽しませてくれる。極めて原理的な架構、木の床、天井に白い壁、中に大きく湾曲した朱色の壁のアクセント。近代建築正統の手法だ。全体に無理がない。
それもその筈だ。設計者の新居照和・ヴァサンティ夫妻はアーメダバードのB.V.ドーシのもとで学んだ。巨匠ル・コルビュジエに師事したインド第一の建築家である。
新居照和は、一方、インドで自然と人間の関係を徹底的に学んだという。この住宅の第一の主題も自然との関係である。第一に、地場産材の利用がある。黒い外壁は、安価で丈夫な地場産の焼杉である。第二は、資源の再利用である。アプローチは古い家の基礎石を組み直したもだ。第三は、合併浄化槽の使用である。浄化槽を通った水は庭の池に導かれ、蓮やメダカなどの生物を生育させ、農業用水へと流される。自らの敷地から可能な限り汚水を出さない。敷地内で、地域内で循環系を確立する、一個の住宅から、というのが新居の主張である。吉野川流域に既に数軒の作品が建つが、この理念は共通である。
インドと日本の風土は大いに異なる。地域に相応しい表現という意味ではさらに試行錯誤が続くであろう。夫妻は第十堰問題にも積極的に取り組んできた。地域の自然があって建築なのであって逆ではないのである。
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21
⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
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