住まいのベーシック 屋根,柱,床,『週刊東洋経済』,20020406
陸屋根(ろくやね)・・・・・・・・・屋根のシンボリズム
屋根には力がある
壁のない家はあっても屋根のない家はない。洞窟住居であれ、穿たれた洞穴を覆う丘や山が屋根である。屋根すなわち覆い(シェルター)は住まいの基本要素であり、その形は第一に住み手や民族、地域の表現となる。屋根の形にはそれだけ象徴的な力がある。
日本の各地に見られる入母屋屋根をいくつも重ねた御殿のような民家は、お城のような家に住みたい、という住み手の願望の表現である。また、ミナンカバウ族(西スマトラ)の水牛の角を模したとされる屋根は民族の表現である。ミナンカバウとは「勇敢な水牛」という意味であり、そのアイデンティティが屋根の形に表現されるのである。しかし、同じ民族だから同じ形ということはない。ミナンカバウ族は出稼ぎが得意でマレー半島のヌグリ・スンビランに多く移住しているが、その屋根の棟は直線的で、間取りは全く異なる。地域で産する材料によって、生活様式によって屋根の形も間取りも変わるのである。
面白いのは一方で地域を超えて似たような屋根の形が見られることである。トラジャ・コーヒーでお馴染みのサダン・トラジャ族(スラウェシ島)の屋根は鞍のような形をしている。倉も墓も棺もおなじ形だ。この形、日本の古墳から出土する家型埴輪に似ている。また、ミナンカバウの家とそっくりな家屋模型が南中国の石寨山から出土している。木造であれば、共通の木組みの仕方があって、どんな形でも自由自在とはいかないのである。
屋根のない家はないといったけれど、屋根を否定したのが近代建築である。四角いマッチ箱のような家が近代建築の理想とされてきた。もちろん、近代建築にも水平な屋根はある。フラットルーフ(陸屋根)という。地中海周辺には陸屋根の美しい白い民家群が見られる。だから、陸屋根は近代建築の専売特許ではないけれども、とにかく勾配屋根は憎まれてきた。おかげで世界中の町の家並みはてんでばらばらである。
木造で陸屋根をつくれば雨が漏る。従って機能的でも合理的でもないのに陸屋根がいいという。近代建築の美学は不思議である。今でも勾配屋根を嫌う建築家は少なくない。
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