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2021年7月1日木曜日

建築材料 京都大学東南アジア研究センター編:事典 東南アジア 風土・生態・環境,布野修司:住

 京都大学東南アジア研究センター編:事典 東南アジア 風土・生態・環境,布野修司:住,弘文堂,1997



建築材料

 





 東南アジアは森林資源の宝庫である。東南アジアの木造文化を支えるのもこの豊かな森林資源である。そして、この豊かな森林資源と日本は無縁ではない。寛文元年(1661年)に隠元禅師によって創建された京都宇治の黄檗山萬福寺の本堂(大雄宝殿)の柱は全てチークだという。尺五寸(45cm)、長さ12mにも及ぶ角柱40本以上もどうやって運んできたのかは不明であるが、南洋材は中国を通じて古くから知られていたことは確からしい。さらに、今日、日本の木材製品の多くが東南アジアに依存し、熱帯雨林の破壊を引き起こすまでになっていることはよく知られていよう。

 

 チーク

 チークは、インドネシア、マレーシアでジャティ、ミャンマーでキュン、タイでマイ・サック、中国では柚木(ユーム)と呼ばれる。強度が大きく、耐久性に優れていることから、建築用材としては構造材として用いられてきた。また、造船用の材料であった。今日では専ら高級家具・内装・彫刻材として用いられている。

 チークは、インド、ミャンマー、タイ、ラオスなど、東南アジアの大陸部で産する。湿潤熱帯より、モンスーン熱帯、すなわち、乾期を明瞭に持つ、標高の高い地域に分布する。同じく高級家具材としてよく知られる、紫檀、黒檀、カリンなども、チークと同じ地域の樹木である。ただ、アマゾン産のマホガニーは湿潤熱帯で見られる。

 島嶼部にチークがないわけではない。ジャワ、バリ、ロンボクなどで構造材とされるのは、まずナンカ(ジャック・フルーツ)であり、ジャティである。ジャワにも、特に中部ジャワ、東部ジャワには広大なチーク林がある。しかし、ジャワにもともとチークが自生したかどうかは論議があるようだ。シャイレンドラ王国やヒンドゥー・マタラム王国の時代に大陸部からチークがもたらされたという説がある。また、オランダ統治時代にも、天然更新ではなく政策的にチークの植裁が続けられてきた。スラウェシ、あるいはスンバワにもチーク材が豊富である。ジャワから移植されたとも言われるが、いずれにせよ、乾期をもつモンスーン地帯ではチークが建材として用いられてきた。チークが豊富な地域では、家屋のみならず、家畜小屋などの構造材として用いられ、さらに、鍬や斧の柄や柄杓、炭などもチークでつくられていたのである。

 

 ラワン・・・フタバガキ科樹木

 東南アジアの湿潤熱帯を代表するのがフタバガキ科の樹木である。フタバガキ科の樹木は全部で五七〇種もあり、その大半はインドからニューギニアまでの、主として東南アジアの島嶼部に分布している。マレー半島だけで168種、ボルネオだけで260種以上あるという。釈迦がその樹木の下で入滅したというサラソウジュはフタバガキ科であるが、日本でいう沙羅双樹(ツバキ科)とは全く違う。フタバガキ科樹木で日本で一般的なのはラワンである。ベニヤ・合板(プライウッド)の素材としてよく知られていよう。フタバガキ科のうちフィリピンで合板に使われたものがラワンと呼ばれ、戦後日本でその名が一般化したのである。

 フィリピンではラワンを含んだフタバガキ科の森林は伐りつくされ、サラワク、サバ、カリマンタンの熱帯雨林が合板用のフタバガキ科樹木(メランティ)の供給源となる。合板利用は戦後のことであるが、日本におけるコンクート型枠用の合板(コンパネ)などの大量消費によって、熱帯雨林は深刻な打撃をうけることになったのであった。

 

 マツ

 マツ類は一般に北半球の高緯度地域を分布域とするのであるが、東南アジアでも見られる。ケシアマツ(二葉)とメルクシマツ(三葉)の二種のみで、前者はミャンマー、タイ、ベトナムなど大陸部とフィリピンに分布しマレー半島以南には見られない。一方、後者はスマトラの赤道南にまで分布する。いずれも山間部の標高の高いところに分布する。

 ケシアマツは、ルソン島山間部のベンゲット州に多いのでベンゲット・パインと呼ばれるのであるが、ボントック族など諸民族の住居の構造材はケシアマツでつくられる。北スマトラのバタック諸族、西スマトラのミナンカバウの住居はメルクシマツによる。南スラウェシのタナ・トラジャ地域にもメルクシマツの林が見られ、建材として用いられるが、スマトラから導入されたもので本来マツ類は自生しないのだという。基本的に構造形式を同じくするバタックとトラジャの住居の関係を考えるひとつの手がかりがあるかもしれない。メルクシマツの林がマツは柱梁材のみならず板材としてもすぐれている。東南アジアを代表し特徴づける木造建築を支えるのがマツ類であることは興味深いことである。

 

 アラン・アラン

 屋根材として一般的に用いられるのがアラン・アランである。

 東南アジアを中心に広く分布することから、インドネシア語のアラン・アランが一般的に用いられるが、イネ科のチガヤのことで、英名コゴングラス、他にララン、クナイという呼び名がある。

 東南アジア各地に広大なアラン・アランの草地があるが、アラン・アランが卓越すると他の樹木や草木が進入できなくなり、耕地への転換もしにくいという。屋根葺き材として使われるのが救いとなる嫌われものである。心棒に竹を使い二つに折って編んだ部品とし、樽木の上にその部品を積み重ねる形で使う。

 木材の豊富なところでは、木の板が屋根材として用いられる。柿葺き、ウッドシングルである。スマトラ、ボルネオ、フィリピンの低地熱帯雨林で見られるボルネオテツボクの柿葺きはよく知られている。

 

 ヤシ

 屋根材としては、他に様々な樹木の葉が用いられるが、アラン・アランと並んで用いられるのがヤシの繊維である。湿潤熱帯に分布するココヤシ、サトウヤシ、アブラヤシ、サゴヤシ、モンスーン熱帯に分布するタラバシ、バルメラヤシなどヤシの種類は何十種類に及ぶが、屋根葺き材に用いられるのはサトウヤシの繊維である。

 サトウヤシの幹にはシュロに似た黒い繊維がついており、インドネシア、マレーシアではイジュクという。その繊維をやはりピースにして使われるが、年毎に部分的に葺き替えられる。耐用年数は数十年である。バリなどではイジュクは社寺や祠の屋根などに特別に用いられ、アラン・アランと使い分けられている。

 ヤシは、それこそヤシ文化と言っていいほど東南アジアの生活に密着し、食料としてはもとより、ヤシ酒や燃料など多様に使われる。ヤシの木は堅くて加工がしにくく、構造材には適しないが、地域産材利用の観点から構造材としての利用も試みられている。

 

 竹

 屋根材として竹が用いられるケースもある。竹を半割にし、上下を重ねて瓦のように葺くのである。あまり雨仕舞が気にならない、また竹の豊富な熱帯ならではの屋根材料である。サダン・トラジャの鞍型屋根は竹を何重かに葺いたものである。

 竹はもちろん屋根材だけではない。全て竹で造られる住居が各地にあるようにどんな部位でも竹で造られる。建材としてポピュラーなのは壁に使われる竹を編んでつくるバンブーマットであろうか。また、天井材にも床材にも、開口部にも使われる。建設現場の足場は今でも竹が用いられることが多い。筏に組んで水上住居の床になることもある。船だって竹でつくられる。樋も竹だ。

 生活のあらゆる場面に竹は使われる。各種のざる、かご、皿、水筒、箒、煙草のパイプ、笛や笙、竹琴などの楽器、獅子脅しや玩具、竹は東南アジアの日常生活と深く関わっており、A.ウオーレスをして「竹は自然が東洋熱帯の住民に与えた最大の贈り物だ」と言わしめた通りである。東南アジアの文化は竹の文化である。

 

 石、煉瓦、ラテライト

 竹、木材が東南アジアの建材のほとんどを占めるのであるが、石や土などもまた用いられる。ボロブドゥールやプランバナンのようなヒンドゥー・仏教建築は石造もしくは組石造である。少し変わった素材としては大陸部のラテライトがある。熱帯風化を受けて、雨水により化学変化を起こして固まった土で、アンコール・ワットやアンコールワットの遺跡群で巧みに利用されている。日干し煉瓦は、バリのように住居でも木造と併用されている。

  瓦は今日では一般的に使われるが、中国の影響による。また、西洋列強がもたらしたと考えていい。地域毎に素焼きで造られている。インドネシアのジャカルタなど大都市の屋根は赤瓦一色で緑に映えて美しい。焼きの温度が足りないためにところどころ黒ずんでいる。

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