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2021年7月31日土曜日

見聞録06 空調を使わないビル エコ・オフィス  ムナラ・メシニアガ・ビル クアラルンプール郊外 建築家:ケン・ヤング

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  空調を使わないビル  エコ・オフィス

 ムナラ・メシニアガ・ビル クアラルンプール郊外 建築家:ケン・ヤング

 


 一風変わったビルだ。円筒形は珍しくないが、所々に窪みがある。よく見ると凹(へこ)んだ空間は螺旋状になっていて、空中に樹木が階段状に植わっている。低層部は半分芝生を植えた屋根で覆われ、屋上には模型飛行機のような形に鉄骨が組まれている。

 ムナラ・メシニアガ・ビル。マレーシアの首都クアラルンプールの中央駅から西南へ二〇分ほど行った郊外にこのビルは建っている。建築家はケン・ヤング。ケンブリッジ大学で博士号をとった学者建築家である。一九九〇年代初頭に彼の名を一躍有名にしたのがこの一四階建てのオフィス・ビルだ。

 一言で言えば、「空調を使わないビル」というのが思想である。いかに自然の風を取り入れるか、その工夫が螺旋状の通風階段である。屋根の鉄骨は輻射熱を防ぐ装置である。樹木や芝生は断熱効果を狙っている。理論的な裏付けをもった大胆な挑戦である。

 二〇年ぶりに訪れたクアラルンプールは思わず絶句するほどの変わり様であった。新都心には、世界一の高さ(四五二メートル)を誇るペトロナス・ツイン・タワー(シーザ・ペリ設計、一九九八年)が聳える。そして、思い思いの形を競うようにビルがにょきにょきと建っている。そうした中で、ケン・ヤングのビルは群を抜いている。二七階建てのセントラル・プラザ(一九九六年)、二一階建てのムナラUMNOビル(一九九七年)も、風の通り抜ける外部空間を大胆に取り入れる同じ思想に基づくデザインだ。

 高気密、高断熱というのが日本では常識である。しかし、空調を全く使わないとしたらどうか。ケン・ヤングのビルはひとつの方向を示している。圧倒的に人口が増え続ける熱帯地方で、クーラーが一般的になると大変なエネルギーが必要になる。しかし、それを指摘しながら、空調を使い続けるのは身勝手だ。日本でも地球環境時代に相応しい全く新たなビルが生み出されてしかるべきである。

 



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❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

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❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

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