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2024年9月7日土曜日

親自然工法とは,傷つけて癒す,楓,19980101

 親自然工法とは,傷つけて癒す,楓,19980101


傷つけて癒す・・・親自然工法とは

布野修司

 

 昨年のある県の景観賞審査委員会で、ちょっとした議論があった。ある河川の改修工事が賞の候補に残り、大半の委員の意見は「賞に値する」という意見のようであった。しかし、ぎりぎりのところである農業土木の専門委員から反対意見が出されたのである。

 当の河川改修は著名な観光地の中心を流れる川で、三面張りの味気ない護岸であったものを自然石やタイルでデザインし直したものである。以前のどぶ川が見違えるようになった、というのが多くの地元の委員の感慨である。

 反対理由のひとつは、この程度の河川改修は全国何処でもやっており、特に、顕彰するまでのことはない、というものである。確かにそうである。県内でも、似たような事例は増えつつある。

 問題はもうひとつの反対理由である。三面張りを改修修景したのはいいが、自然の回復という意味では三面張りと同じであるという。親自然工法とか近自然工法、あるいはビオトープが試みられつつある中で、ちっとも先進的ではない、と力説される。言われれば、そうである。蛍が棲息するように、といった試みは県内にも既にいくつかある。

 河川改修の本質とは何か、議論していくうちに、造園とは何か、ということも問題になってくる。自然のままにしておけばいいというのであれば、造園はいらないのではないか、といった意見も飛び出た。

 結局、その応募作品は見送りとなった。

 今年、再びその作品が問題になった。議論を続けるために、敢えて候補作品として何人かの委員が押し続けた。結果、近自然工法と思われる河川改修と同時に入賞ということになった。

 大きなきっかけとなったのは、公共事業の削減命令で、真っ先にこうした護岸改修や外構の予算が削られそうです、という行政代表委員の休憩時間の発言であった。せっかく、景観をテーマとすることができるようになったのに、後退されてはたまらないというわけである。

 しかし、議論が解決したということではない。いったい親自然工法とはなにか。土木、建築というのは基本的には自然を傷つけることによって成り立つ人工的営為である。造園はどうか。傷つけて癒す、その思想と方法が問われている。景観の問題は、単なるお化粧直しのデザインの話に止まるわけにはいかないのである。

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