『室内』から「世界」を斬る,(『『室内』の52年 山本夏彦が残したもの』,INAX出版所収),室内、200609
室外からみた『室内』
『室内』から「世界」を斬る
布野修司
「百家争鳴」など折に触れて書かせて頂いたが、八九~九〇年の「室内室外」、九八~九九年の「おしまいの頁で」の連載がなつかしい。「僕はインドで牛になりたい」(九四年六月)、「桟留(サントメ)」(九八年九月)―江戸で流行った着物の縦縞模様インドのチェンナイ(マドラス)のサン・トメ(聖トーマス)に由来する―など、アジアを歩き回りながら考えたことが昨日のように蘇ってくる。
『室内』に書く、ということは、「山本夏彦」の眼を通すことであり、文章修行の趣があった。一般の「建築雑誌」に書くよりも肩に力が入った記憶がある。『室内』の魅力は、とにもかくにも「山本夏彦」(的なるもの)だったと思う。核に据えられていたのは、鋭いというか、洒脱なというか、皮肉っぽいというか、醒めたというか、本音というか、要するに「夏彦」的批評精神である。
わかりやすさと庶民感覚、専門や業界に囚われない自由の雰囲気が『室内』にはあった。欠陥住宅問題(「売建住宅に御用心」八六年四月)、設計競技問題(「公開してはどうかコンペの審査記録―面白いのは決定までのプロセス―」八九年一月)、東京論(「語りのこされた場所「皇居」―昭和が終って浮かんできたもの」同三月)、森林資源と割箸問題(山を見あげて木をおもう―どうして割箸なんか持ちだすの?―)九月)など、建築(業)界について、思う存分書いて気分がよかった。「夏彦」的なるものに載せられていたのだと思う。部数の違いもあるが、反響は一般の「建築雑誌」とは比べられないほど大きかった。
職人さんを大事にしたのが『室内』であった。「職人不足は誰のせい」(九〇年三月)を書いた頃、呼び出されてご馳走になった。現場で何が起こっているのか、何が真の問題なのか、とことん問いつめるのが、夏彦さんである。しかし、文章となると軽妙である。「職人不足は誰のせい」というタイトルは編集部につけて頂いたものである。「大工殺しの共犯者たち」というのが僕のセンスであった。人にものを伝え、揺り動かす、それには壷がある。銀行業界批判は痛烈であったが、極めて具体的に読者に向かって一斉にキャッシュ・ディスペンサーから引き落とせ、と書いた、その鋭さには舌を巻いた。夏彦さんは実にラディカルなのである。
『室内』は、誰にとっても身近である。身近なことから世界が見えるし、語れる。身近な問題を縦横無尽に、伸縮自在に扱うのが『室内』の魅力であった。
『室内』布野修司原稿
売建住宅に御用心,室内,工作社,198604
◎じゃぱゆきくん、百家争鳴、室内、198802
室内室外
◎01公開してはどうかコンペの審査記録,面白いのは決定までのプロセス,室内,工作社,198901
◎02語りのこされた場所「皇居」,昭和が終って浮かんできたもの,室内,工作社,198903
◎03国際買いだしゼミナ-ル,建築見学どこへやら,室内,工作社,198905
◎04博覧会というよりいっそ縁日,建築が主役だったのは今は昔,室内,工作社,198907
◎05山を見あげて木をおもう,どうして割箸なんか持ちだすの?,室内,工作社,198909
◎06住みにくいのはやむを得ない,そもそも異邦人のための家ではない,室内,工作社,198911
◎07建築の伝統論議はなぜおきない,日本の建築界にもチャ-ルズがほしい,室内,工作社,199001
◎08職人不足はだれのせい,室内,工作社,199003
◎09こんなコンペなら無い方がまし,室内,工作社,199005
◎10宅地は高いほうがいい,室内,工作社,199007
◎11秋田杉の町能代を見る,室内,工作社,199009
◎12再び能代の町に行ってみて,室内,工作社,199011
◎僕はインドで牛になりたい,百家争鳴,室内,工作社,199406
『室内』おしまいの頁で199801~199912
◎01百年後の京都,おしまいの頁で,室内,199801
◎02室内と屋外,おしまいの頁で,室内,199802
◎03英語帝国主義,おしまいの頁で,室内,199803
◎04 アンコ-ルワット,おしまいの頁で,室内,199804,
◎05 ヤン・ファン・リ-ベック,おしまいの頁で,室内,199805
◎06 秦家,おしまいの頁で,室内,199806
◎07 木匠塾,おしまいの頁で,室内,199807
◎08建築家と保険,おしまいの頁で,室内,199808
◎09桟留,おしまいの頁で,室内,199809
◎10 インド・サラセン様式,おしまいの頁で,室内,199810
◎11 ヴィガン,おしまいの頁で,室内,199811
◎12カピス貝の街,おしまいの頁で,室内,199812
◎13ダム成金の家,おしまいの頁で,室内,199901
◎14 J.シラスのこと,おしまいの頁で,室内,199902
◎15 ジベタリアン,おしまいの頁で,室内,199903
16西成まちづくり大学,おしまいの頁で,室内,199904
17 スラバヤ・ヤマトホテル,おしまいの頁で,室内,199905
◎18京都デザインリ-グ構想,おしまいの頁で,室内,199906
◎19 ジャングル, おしまいの頁で,室内,199907
◎20 大工願望,おしまいの頁で,室内,199908
◎21日光,おしまいの頁で,室内,199909
◎22ヴァ-ラ-ナシ-,おしまいの頁で,室内,199910
◎23北京の変貌,おしまいの頁で,室内,199911
◎24群居,おしまいの頁で,室内,199912
◎旧朝鮮総督府の解体と日帝断脈説,室内,199602
◎序説の人生,室内,200001
◎世界一周,室内,工作社,2000年12月
◎『室内』から「世界」を斬る,(『『室内』の52年 山本夏彦が残したもの』,INAX出版所収),室内、200609
室内室外
公開してはどうかコンペの審査記録,面白いのは決定までのプロセス,室内,工作社,198901
語りのこされた場所「皇居」,昭和が終って浮かんできたもの,室内,工作社,198903
国際買いだしゼミナ-ル,建築見学どこへやら,室内,工作社,198905博覧会というよりいっそ縁日,建築が主役だったのは今は昔,室内,工作社,198907
山を見あげて木をおもう,どうして割箸なんか持ちだすの?,室内,工作社,198909
住みにくいのはやむを得ない,そもそも異邦人のための家ではない,室内,工作社,198911
建築の伝統論議はなぜおきない,日本の建築界にもチャ-ルズがほしい,室内,工作社,199001
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