アジア諸地域における格子状住区の形態と構成原理に関する研究,科研都城研究(1993ー94年):1995年3月
アジア諸都市における格子状街区の形態と構成原理に関する比較研究
チャクラヌガラ(インドネシア・ロンボク島)を中心として
目次 1
はじめに 3
Ⅰ ロンボク島の概要
1.自然と生態 5
2.歴史 5
3.民族と社会 11
3-1 19世紀の社会構造 11
3-2 人口構成 13
Ⅱ チャクラヌガラの構成原理
1.チャクラヌガラの空間構成 14
1-1 街路パターンと宅地割 14
1ー2 住区構成ーーーカラン 15
1ー3 祭祀施設と住区構成 16
1-4 王宮の構成
2.チャクラヌガラの住み分けの構造 18
2-1 人口構成と住区組織 18
2-2 住民構成と施設分布 19
2-3 住み分けの構図 19
2-4 居住空間の構成 22
3.チャクラヌガラの空間構造とコスモロジー 22
Ⅲ ロンボクの都市・集落・住居の構成原理
1.ロンボク島のコスモロジー 24
プラの構成とオリエンテーション
プラ・リンサール
プラとオリエンテーション
プラ・スラナディ
プラ・ナルマダ
2.都市ーーーインドージャワー比較 27
Ⅳ グリッドの構成原理・・S.コストフの『形づくられた都市』より
序 30
1.直線による計画の性質 30
グリッドと政治
“よりよき秩序”か、型にはまった手法か
2.歴史的回顧 37
古代世界のグリッド
中世のニュータウン
ヨーロッパにおけるルネサンス
アメリカへの道
3.グリッドの配置 49
敷地
調査官と理論家
芸術家としての都市計画家
4.都市と田園とを調整する機構 55
田園のグリッド
グリッドの延長
5.閉じたグリッド:骨格、強勢、空地 59
壁で囲まれた骨格
広場の分割
ブロックの構成
6.20世紀におけるグリッド 70
Ⅴ アジアの格子状街区パターン
1.日本の格子状街区パターン 75
2.比較考察 83
都城の計画
「藤原京」と中国の都城
条坊制の変化
平城京と長安城の相似点
3.東アジアの格子状街区パターン 87
都城の理念
『周礼』考工記にみる都市計画
『周礼』考工記の影響
『周礼』考工記に対する批判
「風水」思想による古代の都市計画
都城の数字に関する考察
4.中国に於けるグリッドパターン 94
Ⅵ.ヒンドゥーの都市計画
1.古代インドの都市
2.ヒンドゥーの建築書
3 インドの空間構成 ー都市と王宮ー
はじめに
本研究は、住区構成のための基本原理を得ることを大きな目的とし、アジア各地の都城の格子状街区パターンを取り上げ研究対象とする。
具体的には、東南アジアの都市、特にジャワ・バリ・ロンボクの諸都市に焦点を当て、インドとの比較を試みる。また、それを踏まえて、大きく中国・日本との比較考察を試みる。ひとつのねらいは、日本の都城、特に京都における住区構成の比較都市論的視野からの位置づけである。
大きな視点とするのは、住区構成の基本原理とその変容パターン、そして都市形態とコスモロジーの関係である。格子状パターンといっても、ブロックや道路の規模や配列によって様々である。また、時代とともに理念型としての基本型は変化していく。本研究では、平安京以降の京都の街区パターンとその変遷を一方で念頭に置きながら、格子状パターンのアジアにおけるヴァリエーションを明らかにすることを目的とする。
インドネシアのロンボク島にチャクラヌガラという極めて明快な格子状の都市がある。極めて特異な例といっていい。その構成原理を明らかにすることを最初の目的とし、バリ、ジャワ、東南アジア、インド、中国と順次比較の視野を広げたい。
格子状の街区パターンの対極に考えられるのがイスラーム圏の迷路状の街区パターンである。イスラーム圏であるインドネシアをまず焦点とするのは、その特徴をより明快に把握できると考えるからである。
格子状の街区パターンというのは、古来、エジプト、ギリシャを始め、各地に見られるのであるが、アジアの場合、その形態は宇宙観と結びつけられる場合が多い。本研究の独自な点は、都市形態とコスモロジーの関係に着目し、これまでにない広い視野で都市の住区構成パターンを比較考察することにまずある。具体的な視点、仮説の特徴は次のようである。
第一、王権を根拠づける思想、コスモロジーが具体的な都市のプランに極めて明快に投影されるケースとそうでないケースがある。その違いを明らかにする。
第二に、都市の理念型として超越的なモデルが存在し、そのメタファーとして現実の都市形態が考えられる場合と、実践的、機能的な論理が支配的な場合がある。前者の場合も理念型がそのまま実現する場合は少ない。また、都市構造と理念型との関係は時代とともに変化していく。この関係について考察する。
第三に、都城の形態を規定する思想や理念は、その文明の中心より、周辺地域において、より理念的、理想的に表現される傾向が強い。具体的にアジアの広がりにおいておいて実証したい。
本研究は一見壮大であるが、格子状住区パターンに的を絞り、具体的な都市同士の比較を積み重ねていくことを特徴としている。
管見する範囲では、本研究のような着想の研究はまだない。インドネシアでは、最近、ジャワ北岸(パシシール)地域の諸都市についての研究が開始されつつあるが、緒についたばかりである。本研究を、インドネシア研究者との緊密な連絡のもとに展開し、その刺激になることを役割としたい。
日本国内では、アジア諸都市についての研究が本格化しつつあるが、今のところ東アジアが中心である。また、南アジア、特にパキスタンについての蓄積が若干ある。本研究を、中国、インド、東南アジアを視野に収めた研究の端緒としたい。
中国・日本の「都城」については、膨大な蓄積がある。本研究は、先行研究を応用したい。インドについても、ある程度国外研究者による研究がある。中国、インドについての先行研究は、本研究遂行の大きな背景になっている。
『シルパシャストラ』、『マナサラ』、『ナガラクルタガマ』といった本研究の鍵となる文献は一応翻訳がある。日本でも一九五〇年代後半にその紹介がなされている。本研究では、さらに関連資料を収集しながら、読解する予定である。『マナサラ』の記述とボロドゥールのようなインドネシアのチャンディー建築を突き合わせる研究は、その保存に絡んでなされているが、都市計画についてはこれからのテーマである。
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