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2023年3月30日木曜日

建設廃棄物の行方,周縁から05,産経新聞文化欄,産経新聞,19890710

 建設廃棄物の行方,周縁から05,産経新聞文化欄,産経新聞,19890710


建設廃棄物の行方

                布野修司

 

 首都圏のある町で、ちょっとした騒ぎが起こった。もう四年ほど前のことだ。首都圏といっても辺りには田園風景が広がる、都心からは数十キロ離れた町でのことである。

 どうも稲の生育がおかしい、というのが発端であった。農業用水が汚染されているのではないかというので、調べてみると果して有害物質が検出された。原因は近くの沼にあった。その沼には山のように廃棄物が捨てられていたのである。

 不法投棄である。捨てられていたのは、解体された建築物、建設廃棄物である。新建材に含まれていた化学物質が流れ出したらしい。不法投棄を行った業者は、同時に沼の底から砂を採取していた。砂を採取するためにバキュームカーで沼を引っかきまわしたのである。周辺の水田に有害物質が流れ出したのはそのせいだ。業者は、解体業者として建設廃棄物を運んで来て、帰りには建設資材として砂を運んでいた。一石二鳥のボロ儲けの商売である。

 こんな騒ぎは珍しいのかも知れない。しかし、建設残土や建設廃棄物をめぐる騒動はその後各地で起こった。バブル経済が産んだ未曽有の建設ブーム、再開発ラッシュによってマネーゲームが繰り広げられる一方、その背後で排出されたのが膨大な量の建設廃棄物である。都心の地上げはひとつの町が消滅するほどすさまじいものであったのだ。解体業者、廃棄物業者は大忙しである。そして大問題になったのが、廃棄のための場所である。解体しても運ぶところがないのだ。

 関東だと栃木県、群馬県まで行かなければならない。さらに、東北にまで廃棄のための場所が求められたという。不法投棄が頻発したのはそのせいである。それどころか、フィリピンへ廃棄物を持って行こうという業者まで現れた。日本の建設廃棄物でマニラ湾を埋め立てる、ここでも一石二鳥をねらおうというのである。

 もし、ビルやマンションが一斉に建て替えねばならない時期がきたらどうなるのか、という問題はかねてから意識されてきた。膨大なコンクリートの塊は、東京であれば東京湾に埋め立てるしかないのではないか。それでも大丈夫だろうか、という声は実は以前からあった。

 しかし、ただ声があった、というだけのことで何も手がつけられてきたわけではない。再生コンクリートのような建設資材のリサイクルも考えられ、実用化されつつもあるのだが、ほんのわずかな動きでしかない。

 もちろん、いま建築界において本質的に問われているのは、スクラップ・アンド・ビルドを前提にして建設資材のリサイクルを考えることではない。

 建設廃棄物をめぐってこの間起こっていることが突きつけるのは建築のありかたそのものである。また、それを支える思想である。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返すだけで果していいのか。耐久消費財化した建築のありかた、仮設建築物であり続けている日本の建築のあり方が最終的に決定的に問われているのである。

 



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