パッシブ・ソ-ラ-・システム・イン・インドネシア,雑木林の世界93,住宅と木材,199705
雑木林の世界93
パッシブ・ソーラー・システム・イン・インドネシア
布野修司
「エコ・ハウス・イン・スラバヤ」(雑木林の世界75)を構想し、「パッシブ・アンド・ロウ・エナジー」(雑木林の世界92)で予告したインドネシア版エコハウス(環境共生住宅)のモデル住宅を実際に建設することになった。正直に言って、意外に早い展開である。(財)国際建設技術協会(IDI)の途上国技術協力プログラムの一環として取りあげられることになったのである。
京都大学の東南アジア研究センターの派遣でインドネシアを訪れる機会があり(三月一二日~三〇日)、スラバヤにも足を伸ばし、具体的なデザインについて検討することになった。今回は、事前アナウンスメントということであったが、スラバヤ工科大学(ITS)の学長とプロジェクトの実効についてまず基本的に合意することになった。
様々な経緯があり、様々な形態が模索されたけれど、結局、IDIとITSとの協力関係として実行することになった。そう大きくないお金であり、用地もITSキャンパス内に容易に確保できることから、また、建築確認等手続きもよく知ったネットワークにおいてスムースにできることから、スラバヤをプロジェクトの実施場所に推薦したのは僕である。J.シラス教授をリーダーとするスラバヤのチームとは、もう一五年近くのつき合いである。長年のつき合いに基づく、J.シラス教授への絶対的信頼が背景にある。
初年度で建設を行い、二年度では測定を行う。
さて、どういうモデルを考え、建設するのか。一応、事前に、案をつくったのであるが、とても予算が合わないことがわかった。僕らとしては、戸建て住宅ではなく、集合住宅(ルーマー・ススン)のモデルを実験すべきだという判断があり、どうしてもある程度の規模が必要となるのである。
丁度、J.シラス教授が自宅を建設中であり、工事単価が参考になる。いくら物価の違いがあるとはいえ、可能なのは戸建て住宅程度の規模である。そこで、スケルトンだけつくって、次第に仕上げるという案が浮上しつつある。
建設後、一年かけて測定を行うこともあり、完全に内装を仕上げないものも含めていくつかのタイプをつくってみよう、というのがひとつのアイディアである。
技術的に検討しているのは、ダブル・ルーフ、ソーラーチムニー(ダブル・ウオール)、クール・チューブ、ロング・イーブズ(シャドウイング)、デイライティング、ソーラー・バッテリー、クロス・ベンチレーション、イグゾウスト・ヴェンチレーション・・・等である。
カタカナで書くと、何やら新技術のようであるが、基本的な概念はパッシブであり、人工的な機械力に頼らず、自然の力、エネルギーを有効利用しようということである。
ダブル・ルーフ、ダブル・ルーフは、空気層を挟んで廃熱と断熱効果をねらう。また、ソーラー・チムニーは、各戸の廃熱をねらう。
共用空間はできるだけポーラスな(他孔質)にし、クロス・ヴェンチレーション、さらに垂直方向を加えたトリプル・クロス・ヴェンチレーションを考える。ソーラー・チムニーも構造システムと合わせて採用したい。また、吹き抜けも、昼光利用と合わせて考えたい。
夜間冷気を蓄える工夫も是非考えたい。地盤が悪いことから、ボックス・ファンデーションを考えており、半地下をクール・ボックスに使う。
天井輻射冷房、壁体輻射冷房を考えたい。太陽は豊富なところだから大いに利用する。給湯に利用する技術はそう難しくないし、既に普及しつつある。また、給湯については一般の庶民レヴェルではあまり必要とされていない。
問題は冷房である。ソーラー・バッテリーによるポンプで水を循環させることを考える。最も実験的なところであるが、ポーラスな全体構造と矛盾がある。輻射の効果を上げるためには、空間を密閉する必要があるのである。しかし、床が冷えるだけで、気持ちがいい。とにかくやってみたらどうかというのが素人考えである。
構造はスケルトンとインフィルを分離する。また、基盤構造と上部構造を分離する。基盤構造は、ボックス・ファンデーションと鉄筋コンクリートのフレーム、ソーラー・チムニーと水循環パイプを組み込んだ床からなる。上部構造は木構造で考える。
断熱材にはイジュク(砂糖椰子の繊維)を用いたい。できるだけ地域産材を使うのが方針である。しかし、イジュクについては手に入らないし、高いという。ココナツの繊維も集めるのはなかなか大変らしい。代替の材料を考える必要がある。また、材木については白蟻の害があるという。実施設計になると色々問題が出てくるものである。
スラバヤは南緯七度の南半球にあるから、太陽は北にあるのが普通である。日本の感覚と違うから戸惑う。南から陽が当たるのは一年のうち、三分の一程度である。建物の方向をどう設定するか、が問題となる。実際の敷地条件にも左右される。
想定される敷地に行ってみると、意外に風が強い。海に近いせいである。通風を考えるのはいいけれど、強風を制御する装置が必要である。また、風力発電が考えられるかも知れない。クール・チューブについては、近くに適当な樹林がないことから難しいかもしれない。
と、以上のようなアイディアと技術を盛り込んだ設計案をJ.シラス教授と議論し始めたところである。建設が楽しみであるが、施工に当たっては大問題もある。
地元の建設業者によれば、安くできるのは明かである。しかし、日本側としては、品質の保証を考えると、日本の標準仕様を考えると、どうしても地元業者によるより高くなる。日本政府の援助として、品質が気になるのは当然である。しかし、現地で普通に建てられている仕様によれば、はるかに大きなものの建設が可能である。矛盾である。また、現地で一般的に建てられるものでなければ普及しないはずである。矛盾である。なんとかうまくやりたいと思う。
実験施設は、生態環境研究センターとして継続利用が考えられているけれど、その将来計画との兼ね合いもポイントである。増築システムが必要とされるのである。
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