パッシブ・アンド・ロ-・エナジ-・ア-キテクチャ-,雑木林の世界91,住宅と木材,199703
雑木林の世界91
パッシブ・アンド・ロウ・エナジー・アーキテクチャー
布野修司
PLEA(パッシブ・アンド・ロウ・エナジー・アーキテクチャー)釧路国際会議「持続可能な社会に向けてー北の風土と建築」(主催:日本建築学会 PLEA1997日本実行委員会 実行委員長・小玉祐一郎 於:釧路市観光国際交流センター 一月八日~一〇日)に出席する機会があった。最終日の最後のシンポジウム「エコロジカルな建築」(司会小玉祐一郎 問題提起者:ビヨン・ベルグ ヴァリス・ヴォカルダー 討論者:J.クック(アメリカ)、A.de ヘルデ(ベルギー)、A.トンバジス(ギリシャ)、岩村和夫、大野勝彦、野沢正光、布野修司)にコメンテーターとして出席しただけだから、全貌はとても把握するところではない。しかし、登録者数が一二〇〇名にもおよぶ大変な国際会議であり、今更ながらであるが、環境問題への関心の高さを思い知った。
OMソーラー協会の全面的バックアップもあり、工務店、地域ビルダーの参加も多かったし、釧路市民の関心も高かったように見える。何よりも、東京からフェリーでワークショップを行いながら参加した若い学生諸君の参加が賑やかであった。幸い天候には恵まれたのであるが、極寒の釧路を吹き飛ばす熱気が会場に溢れていた。また、数多くの論文発表に大きな刺激を受けた。
PLEAについては、ほとんど知るところがなかったのであるが、第一回(一九八二年)のセントジョージ島(バミューダ)から回を重ねてもう一四回になるという。日本では第八回の奈良(一九八九年)に続いて二回目である。
ベルグ氏はノルウエイの建築家で、生物学者も参加するガイア・グループを組織し、エコ・サイクル・ハウスの実現を目指す。生態原理に基づき、自然のサイクルと相互交渉する建築がその理念である。
まず、興味深かったのは、モノマテリアル(単一素材)という概念である。モノマテリアルも一次、二次が区別される。一次モノマテリアルは、木、藁、土など、要するに生物材料、自然材料である。二次モノマテリアルは、工業材料であるが単一素材からなる、鉄、ガラス、コンクリートなどである。その厳密な定義をめぐっては議論が必要なように思えたけれど、要はリサイクルが容易かどうかで材料を区分するのである。
自然の生の材料であること、製造にエネルギーがかからないこと、公害を発生しないこと、フェイス・トゥー・フェイスの関係を基礎としてつくられること、という基本原理を踏まえて提案された完全木造住宅のモデルが面白い。簡単なジョイントのみでなりたち、手工具だけで組み立てられるのである。塗料の問題が残るが、極単純かつラディカルな発想である。もちろん、木造一系統でいいのか、という疑問も沸いてくる。いわゆるスケルトン、クラディング、インフィルとシステム系統を考えて、リサイクル・システムを考える必要はないか。いずれにしても、日本ではどうも徹底しない。木造住宅といっても、木材の使用率は二五パーセント以下ではないか。
ヴォカルダー氏は、スウェーデンの建築家、研究者で、エコロジー学校の運動に取り組んでいる。学校施設をエコロジカルに設計計画することにおいて、環境教育をまさに実践しようというのである。身近な環境をまず変えていこうという姿勢には感心させられた。日本でもエコロジー学校はつくられてもいいのである。マニュアルはつくられるけれど、一個一個の積み重ねが日本の場合弱い。二人の問題提起によって彼我の差異を様々感じさせられたのであった。
釧路が会場に選ばれたことが示すように、今回は、寒い地域の「エコロジカルな建築」について考えようということであった。そうした意味では、長年、東南アジアの居住問題を考えている僕にはシンポジウムの席は、座り心地が悪かった。しかし、環境問題には、国際的な連帯が不可欠であり、南北問題を避けては通れない、というベルグ氏の発言もあって、「湿潤熱帯」では「エコロジカルな建築」の考え方も違うのではないか、といった発言をさせていただいた。
高緯度では、ミニマルな建築がいい(ベルグ氏)、というけれど、湿潤熱帯では、気積を大きくして断熱効果を上げるのが一般的である。実際、湿潤熱帯には伝統的民家には巨大な住宅が少なくないのである。小さい建築が少資源につながるというけれど、大きくつくって長く使う手もある。地域によって、エコ・サイクル・ハウスのモデルが違うのはその理念に照らして当然なのである。
建材の地域循環はどのような規模において成立するのかも大テーマである。国際的建材流通をどう考えるか。戦後植林した樹木が育ち、木材資源は日本でも豊富といっていいが、山を手入れする労働力がない。輸入材の方が安い、という現実をどう考えるか。建材をめぐる南北問題をどう考えるか。熱帯降雨林の破壊はどうすればいいのか。シンポジウムの席でいろいろ刺激を受けたのであるが、つい考えるのは東南アジアのことであった。
実をいうと、小玉祐一郎氏の指導で、J.シラス先生(スラバヤ工科大学)をはじめとするインドネシアの仲間たちと湿潤熱帯用のエコ・サイクル・ハウスのモデルを考えようとしているせいでもある(雑木林の世界75「エコハウス イン スラバヤ」 一九九五年)。小玉祐一郎氏が釧路会議に出席をもとめたのは、「もう少し勉強しろ」という意味だったと、壇上で気がついた次第である。おかげでエコ・サイクル・ハウス・イン・スラバヤは実現に向かって動き出しそうである。
二一世紀をむかえて、爆発的な人口問題を抱え、食糧問題、エネルギー問題、資源問題に直面するのは、熱帯を中心とする発展途上地域である。経済発展とともに急速にクーラーが普及しつつある。一体地球はどうなるのか、というわけであるが、クーラーを目一杯使う日本人の僕らがエコ・サイクル・ハウスを東南アジ諸国に押しつけるなど身勝手の極みである。まず、隗よりはじめよ、とJ.シラス先生に怒られながら、暑い国のエコ原理について設計しはじめたところだ。
心強い身方がいる。釧路会議でも一緒だったのであるが、太陽エネルギー研究所の井山武司氏である。彼自身自宅をオートノマス・ハウスとして設計しており、今回はそれを発表したのであるが、熱帯についてはそれ以前に実績がある。バリ島にエコ・ハウスのモデルをすでに建設しているのである。
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