講演:京都エコハウスモデルへむけて,日本の住宅生産と「地域ビルダー」の役割,京都健康住まい研究会,19991029
京都エコハウスモデルにむけて
日本の住宅生産と「地域ビルダー」の役割
京都大学大学院工学研究科
生活空間学専攻 地域生活空間計画講座
布野修司
●略歴
1949年 島根県出雲市生まれ/松江南校卒/1972年 東京大学工学部建築学科卒
1976年 東京大学大学院博士課程中退/東京大学工学部建築学科助手
1978年 東洋大学工学部建築学科講師/1984年 同 助教授
1991年 京都大学工学部建築系教室助教授
●著書等
『戦後建築論ノート』(相模書房 1981)
『スラムとウサギ小屋』(青弓社 1985)
『住宅戦争』(彰国社 1989 )
『カンポンの世界ーージャワ都市の生活宇宙』(パルコ出版199107)
『見える家と見えない家』(共著 岩波書店 1981)
『建築作家の時代』(共著 リブロポート 1987)
『悲喜劇 1930年代の建築と文化』(共著 現代企画室)
『建築計画教科書』(編著 彰国社 1989)
『建築概論』(共著 彰国社 1982)
『見知らぬ町の見知らぬ住まい』(彰国社 199106)
『現代建築』(新曜社)
『戦後建築の終焉』(れんが書房新社 1995)
『住まいの夢と夢の住まい アジア住居論』(朝日選書 1997)
『廃墟とバラック』(布野修司建築論集Ⅰ 彰国社 1998)
『都市と劇場』(布野修司建築論集Ⅱ 彰国社1998)
『国家・様式・テクノロジー』(布野修司建築論集Ⅲ 彰国社1998) 等々
○主要な活動
◇ハウジング計画ユニオン(HPU) 『群居』
◇建築フォーラム(AF)
『建築思潮』
◇サイト・スペシャルズ・フォーラム(SSF)
◇研究のことなどーーーアジア都市建築研究会
◇木匠塾
◇中高層ハウジングプロジェクト
◇建築文化・景観問題研究会
◇京町屋再生研究会
◇
◇
●主要な論文
『建築計画の諸問題』(修論)
『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究』(博論)
Considerations on Housing System based on
Ecological Balance in the Region, The 8th
EAROPH International Congress
JAKARTA 1982
The Regional Housing Systems in Japan,HABITAT
International PERGAMON PRESS 1991
京都エコハウスモデルにむけて 日本の住宅生産と「地域ビルダー」の役割
Ⅰ 日本の住宅生産
1 概要
①国民経済と住宅投資 ②住宅建設戸数の動向 ③住宅需要の動向
④住宅所有関係の動向 ⑤住宅種別の建設動向 ⑥工務店事業所及び従業員数
⑦建設関係技能者 ⑧建築士と建築士事務所 ⑨木材需給⑩建材 ⑪工具
2 地域特性
①住宅着工動向 ②木造率 ③プレファブ化率 ④住宅関連業種
3 国際比較
Ⅱ 住宅生産者社会の構造
1 住宅供給主体と建設戸数
2 住宅生産者社会の地域差
3 工務店の類型と特性
Ⅲ 日本の住宅をめぐる問題点 論理の欠落ーーー豊かさ?のなかの貧困
◇集住の論理 住宅=町づくりの視点の欠如 建築と都市の分離
型の不在 都市型住宅 家族関係の希薄化
◇歴史の論理 スクラップ・アンド・ビルドの論理
スペキュレーションとメタボリズム価格の支配 住テクの論理
社会資本としての住宅・建築・都市
◇多様性と画一性 異質なものの共存原理
イメージの画一性 入母屋御殿
多様性の中の貧困 ポストモダンのデザイン
感覚の豊かさと貧困 電脳台所
◇地域の論理 大都市圏と地方
エコロジー
◇自然と身体の論理:直接性の原理
人工環境化 土 水 火 木
建てることの意味
◇生活の論理「家」の産業化 住機能の外化 住まいのホテル化
家事労働のサービス産業代替 住宅問題の階層化
社会的弱者の住宅問題
Ⅳ 京都で考えたこと
京町家再生
京都グランドヴィジョン
祇園祭と大工 マイスター制度とものづくり大学
Ⅴ 京都エコハウスモデルに向けて
21世紀の集合住宅
三つの供給モデル
エコ・ハウス・・・・ナチュラル・ハウス・・・
スラバヤ・エコ・ハウス
パッシブ・クーリング 冷房なしで居住性向上
ミニマム熱取得 マキシマム放熱
ストック型構法
長寿命(スケルトン インフィル) リニューアブル材料 リサイクル材料(地域産出材料)
創エネルギー
自立志向型システム(Autonomous House) PV(循環ポンプ、ファン、共用電力) 天井輻射冷房
水
自立志向型給水・汚水処理システム 補助的ソーラー給湯
ごみ処理 コンポスト
大屋根 日射の遮蔽
二重屋根
イジュク(椰子の繊維)利用
ポーラスな空間構成 通風 換気 廃熱
昼光利用照明
湿気対策 ピロティ
夜間換気 冷却 蓄冷
散水
緑化
蓄冷 井水循環
スケルトン インフィル
コレクティブ・ハウジング
中水 合併浄化槽
外構 風の道
フローからストックへ
地域性の原理・・・地域住宅生産システムの展望:
環境共生
自律性の原理・・・
京の風土と町にふさわしいエコ・サイクル・ハウスの提言
はじめに
日本の住宅生産の動向、その問題点をめぐって論ずべき点は多いが、決定的なのは一貫する住宅供給の論理が不在であり、地球環境時代における住宅のプロトタイプについて必ずしも明確になっていないことである。豊かさの中の論理の欠落について列挙すれば、少なくとも以下の点が指摘できる。
◇集住の論理の欠落:住宅供給=町づくりという視点がない。建築と都市計画がつながっておらず、都市型住宅としての集住のための型がない。
◇歴史の論理の欠如:スクラップ・アンド・ビルド(建てて壊す)論理がこれまで支配的であり、歴史的ストックを維持管理する思想がなかった。住宅供給は住テクの論理によって支配され、社会資本としての住宅・建築・都市という視点が欠けている。
◇異質なものの共存原理の欠如:日本の住宅は極めて多様なデザインを誇るように見えて、その実、画一的である。生活のパターンは一定であり、従って間取りは日本全国そう変わらない。文化的な背景を異にする人々と共生する住空間が日本には用意されていない。
◇地域の論理の欠如:住宅は本来、地域毎に固有な形態、原理をもっていた。地域の自然生態、また、社会的、文化的生態によって規定されてきたといってもいい。その固有の原理を無化していったのが産業化の論理である。また、住宅問題は、大都市圏と地方では異なる。住宅の地域原理を再構築するのが課題となる。
◇自然と身体の論理の欠如:産業化の論理が徹底する中で、住宅は建てるものではなく買うものとなっていった。また、人工環境化が押し進められた。住宅は工業生産品としてつくられ、その高気密化、高断熱化のみが追求されることによって、住空間は人工的に制御されるものと考えられてきた。結果として、住空間は、土、水、火、木・・・など自然と身体との密接な関わりを欠くことになった。
◇生活の論理「家」の産業化:問題は単に住宅という空間の問題にとどまらない。住機能の外化、住まいのホテル化家事労働のサービス産業代替、住宅問題の階層化、社会的弱者の住宅問題など家族と住宅をめぐる基本的問題がある。
エコ・サイクルハウスの理念
これからの住宅供給のあり方について、以上を踏まえて、いくつかの基本原理が考えられる。
◇長寿命構法、ストック型構法(スケルトン・インフィル分離)
まず、フローからストックへという流れがある。すなわち、建てては壊すのではなく、既存の建物を維持管理しながら長く使う必要がある。日本全体で年間150万戸建設された時代には住宅の寿命は30年と考えられたが、少なくとも百年は持つ住宅を考えておく必要がある。そのためには建築構法にも新たな概念が必要である。住宅の部位、設備など耐用年限に応じて取り換えられるのが基本で、大きくは躯体(スケルトン)と内装(インフィル)、さらに外装(クラディング)を分離する。また、再利用可能な材料、部品(リニューアブル材料 リサイクル材料を採用する。
◇地域型住宅:地域循環システム
地域の風土に適合した住宅のあり方を模索するためには、地域における住宅生産システムを再構築する必要がある。具体的には地域密着型の住宅生産組織の再編成、地域産材の利用など住宅資材の、部品の地域循環がポイントである。
◇自立志向型システム(Autonomous House)
循環システムは個々の住宅においても考えられる必要がある。特に、廃棄物、汚水などを外部に極力出さないことが大きな方針となる。自立志向型給水・汚水処理システム、ごみ処理用コンポストなどによって、住宅内処理が基本である。
◇自然との共生
個々の住宅内での循環系システムの構築に当たってはふたつの方向が分かれる。いわゆるアクティブとパッシブである。しかし、省エネルギー、省資源を考える場合、パッシブが基本となる。具体的には冷暖房なしで居住性を向上させるのが方針である。ミニマム熱取得、
マキシマム放熱が原理となる。通風をうまくとる。また、太陽光発電、風力発電など創エネルギーも重要となる。さらに、天井輻射冷房などの考え方も導入される。
エコ・サイクル・ハウス・テクノロジー
以上のような原理は各地域の状況に合わせて考えられる必要があり、それぞれにモデルがつくられる必要がある。インドネシアのスラバヤでモデル集合住宅を建設した経験がある。北欧など寒い国には既に多くのモデルがあるが、問題は暑い地域である。地球環境全体を考えるとより重要なのは暑い地域の住宅モデルである。スラバヤは、日本と無縁のように見えるかもしれないが、大阪、京都の夏と同じ気候である。採用した考え方、技術を列挙すれば以下のようになる。大屋根による日射の遮蔽、二重屋根、イジュク(椰子の繊維)の断熱材利用、ポーラスな空間構成、通風、換気、廃熱、昼光利用照明、湿気対策のためのピロティ、夜間換気、冷却、蓄冷、散水、緑化、蓄冷、井水循環。こうした考え方は、基本は京都でも同じである。一般的にエコ・ハウス・テクノロジーを列挙すれば次のようになる。
◇自然(地・水・火・風・空)利用:風力エネルギー、風力利用:通風腔・外装システム:自然換気システム、壁体膜:太陽熱利用、断熱、蓄熱、昼光利用、昼光制御、昼光発電、地熱利用、PV(循環ポンプ、ファン、共用電力)
◇リサイクル・資源の有効利用:建築ストックの再生:地域産材利用、雨水・中水利用:廃棄物利用・建材、古材、林業廃棄物、間伐材利用、産業廃棄物:廃棄物処理
、コンポスト、合併浄化槽、土壌浄化法
京都エコ・サイクル・ハウス・モデルへ向けて
具体的な京都エコ・サイクル・ハウス・モデルについては、いくつかの条件設定が必要である。京都の住宅需要に即した提案でなければ画餅に終わる可能性がある。
まず考えられるのは町家モデルである。これも二つあって、ひとつは新町家というべきモデルであり、ひとつは既存の町家の改造モデルである。いずれも伝統的町家を評価した上で、新たな創意工夫が必要である。「京都健康住まい研究会」の提案は町屋モデルの提案である。町家を新たに建設する機会はそうあるわけではないが、既存の町家の改造は大きな需要がある。
もうひとつ是非とも必要なのは集合住宅モデルである。立地によって、また、供給主体によってモデルは異なるが、それぞれのケースにモデルが必要である。スケルトンについては、O型 柱列型 column、 A型
壁体スケルトン wall、B型 地盤型スケルトン baseを一般に区別できる。供給主体についても、地主単一の場合、複数の場合で異なる。
しかし、いずれにしろ、スケルトンーインフィル分離、オープンシステム、居住者参加、都市型町並み形成、環境共生は鍵語である。
布野修司関連文献
■単著
①スラムとウサギ小屋,青土社,単著,1985年12月8日
②住宅戦争,彰国社,単著,1989年12月10日
③カンポンの世界,パルコ出版,単著,1991年7月25日
④住まいの夢と夢の住まい・・・アジア住居論,朝日新聞社,単著,1997年10月
⑤廃墟とバラック・・・建築のアジア,布野修司建築論集Ⅰ,彰国社,単著,1998年5月10日(日本図書館協会選定図書)
⑥裸の建築家・・・タウンアーキテクト論序説、建築資料研究社,単著,2000年3月10日
■編著
⑦見知らぬ町の見知らぬ住まい,彰国社,編著,1990年
⑧建築.まちなみ景観の創造,建築・まちなみ研究会編(座長布野修司),技報堂出版,編著,1994年1月(韓国語訳
出版 技文堂,ソウル,1998年2月)
⑨建都1200年の京都,布野修司+アジア都市建築研究会編,建築文化,彰国社,編著,1994年
⑩日本の住宅 戦後50年, 彰国社,編著,1995年3月
■共著
⑪見える家と見えない家,叢書 文化の現在3,岩波書店,共著,1981年
■訳書
⑫布野修司:生きている住まいー東南アジア建築人類学(ロクサーナ・ウオータソン著 ,布野修司(監訳)+アジア都市建築研究会,The Living House: An Anthropology of Architecture in South-East
Asia,学芸出版社,監訳書,1997年3月
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