traverse 4 新建築学研究第4号
9.11(2001)以降何かが変わってしまった。圧倒的な軍事力を背景にアメリカ合衆国は世界を動かし始めたようにみえる。イラク戦争は、たった3週間という短期間で、多くの予想を裏切って、終結したのであった。果たしてパックス・アメリカーナPart2がくるのであろうか。もしかすると、テロという火種を孕むことによって世界史は半世紀後退したとみるべきではないのか。
しかしそれにしても、メソポタミア文明の遺産がバクダード博物館や各地の遺跡から大量に略奪されたという事実には唖然とするばかりだ。イラク戦争の連日の報道は、ウル、ウルク、ラガシュ、バビロン、そしてバクダード、サーマッラーなどの古代都市の位置関係を叩き込むように教えてくれた。チグリスとユーフラテスに囲われた人類最古の都市文明を育んだ肥沃な土地が戦場であった。この人類史に対する横暴冒涜は絶望的である。
そしてSARS(新型肺炎)の発症である。医療技術の進歩にも関わらず、次々と新たなウィルスが出現するのは、現代文明のどこか致命的欠陥をついているのではあるまいか。また、SARSの蔓延はグローバリゼーションの複雑な関係を明るみに出し、世界経済をも翻弄しつつある。
日本では2003年問題が進行しつつある。未曾有の不況であるにも関わらず、この空間の供給過剰は一体何故なのか。東京だけではない。京都の都心も時ならぬマンション建設ラッシュである。建築業界が存亡の危機を迎えているにもかかわらずである。
この奇妙な現実を分析したい。そして、本質的な議論をしたい。時代に対して敏感でありながら、深い思索を重ねたい。traverseの願いである。
(布野修司 /
編集委員会)
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