第69回 日本大学全国高等学校建築設計提案
『集まって住むかたち Covid-19以後』
■課題主旨
Covid-19は、私たちの住まい、街、都市、国土そして世界のあり方について、実に大きな課題を突きつけているように思われます。ウイルスは、われわれホモ・サピエンスの100万倍のスピードで進化すると言います。疾病の世界史を振りかえっても、われわれとウイルスとの遺伝子レヴェルの戦いと共存は繰り返されていくと考えられます。
Covid-19以後、身近な居住環境はどう変わっていくのでしょうか。第1に、在宅、オンラインによるコミュニケーションのウエイトは確実に大きくなっています。新たに体を動かしたり、リラックスする空間が必要になるかもしれません。第2に、家庭内感染に対して、住居内の分離と結合を見直す必要があります。第3に、単身者、障害者、エッセンシャルワーカーなど、家族を超えて近隣、地域社会のサポートも必要になるでしょう。・・・・
日本の限られた現実的条件を前提として、Covid-19以後の新しい「集まって住む形」を求めたいと思います。
■視点
家族のあり方は多様化し、流動化しつつあります。核家族を想定したnLDK住宅は、その多様化の流れに対応していません。最新の国勢調査(2015年)によれば、夫婦のみが1072万世帯(20.1%)、単独世帯が1842万世帯(34.5%)にのぼります。夫婦と子供という本来の核家族は1429万世帯(26.8%)にすぎません、片親と子供世帯が475万世帯(8.9%)あります。一方で1000万戸もの空き家が出現しています。Covid-19を契機としなくても、新たに集まって住むかたちが必要とされる切実な背景があります。多世代が、多様な家族が集まって住む、そういう集住モデルを期待したいと思います。
総評【集まって住むかたちーCovid-19以後】
建築を学び始めて半世紀になります。この間、国公私立5大学で設計教育に携わり、20を超える実施建築設計競技(コンペ)の審査にも関わってきました。各種、建築賞、景観賞、学生コンペを加えれば相当の数に上りますが、建築を学び始めたばかりの高校生のコンペの審査は初めてです。今回の審査に関わらせていただいて思い出したのは、建築を学び出したばかりの初々しい気持ちです。
まず驚いたのは、レヴェルの高さです。大学の設計製図や設計演習の作品と比べても遜色ありません。応募105作品は多様であり、プレゼンテーションには巧拙があります。しかし、それぞれに真摯な活き活きした提案があり、強く訴えかけるものがありました。建築の世界にどっぷりつかっていると、建築することの楽しさ、建築の豊かさをついつい忘れて、建設費、技術的可能性などの現実的諸条件、時代の建築ファッションに囚われてしまうのですが、建築のもっている可能性、建築の原点をあらためて感じさせてくれる実に楽しい審査会でした。優秀賞に選定した「空き家を利用した本でつながるシェアハウスーモノ・ヒト・コトをつなげる家―」(68)は、応募者は全く建築的なトレーニングを受けていないということですが、実に豊かな溢れるような建築提案を含んでいます。
「集まって住むかたち」というテーマ自体は、住居の集合としての街を考える極めて普遍的な問いだと思います。世界には多様な「集まって住むかたち」、多様な町があります。しかし、この間世界中を襲ったCovid-19は、「集まって住むかたち」に大きなインパクトを与えるのではないか、これまでにない新たな「かたち」が必要とされるのではないかというのが「課題主旨」です。加えて、空き家が1000万戸にもなろうとする、日本の深刻な状況があります。少子高齢化に日本の住居形態が対応していないことは致命的だと思われます。これが「視点」です。
この問いかけに対する若い感性による提案には教えられることが少なくありませんでした。「職人佳境 一人ぼっちの神様、みんなで囲もう計画」(63)は、神社が「空き家化」し、一方で、外国人労働者増えてきた地域における集まって住むかたちの提案です。賞には選定されませんでしたけれども「みらい食堂」(57)は、子ども食堂を地域の核にしようという提案です。「job apartment
house―団地コミュニティを創造するサードジョブー」(70)は、コワーキング・スペースや工房、店舗などを新たに組み込む既存の団地に新たなコミュニティを創生しようという提案です。「集えトレーラーハウスー暮らしをシェアするトレーラーハウスの家-」(69)は、日本でもトレーラーハウスを集合させるホテルなどが実現しつつありますが、自由に移動しながら、オフグリッドでテレワークする住居のあり方として、近い将来もっと増えるんじゃないでしょうか。「青テント→青屋根」(93)も、テントや簡易な小屋建ての住居が自由に集おうという提案です。最優秀賞作品「継ぐ」(64)もそうですが、「ひだまり、猫だまりの家。猫に近づくシェアハウス」(17)、「父への贈り物」(1)のように、そのまま実現できるのではないかと思える作品もありました。審査員長特別賞ということで「福を気配りできる住まい」(13)を選ばせて頂きましたが、流れるような空間のつながりに、もうひとつの「集まって住むかたち」の可能性があるのではないかと思いました。
105もの多様な提案をみていくと、建築という分野が実にひろいということをあらためて確認できます。建築は社会のすべてに関わっているわけで、逆に言えば、住居が誰にも身近であるように、すべての人は建築に関わるということです。今回寄せられた提案が、やがて実現していく社会を夢見たいと思いながら、皆さんに期待したいと思います。
(審査員長 布野修司)
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