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2024年8月28日水曜日

職人大学の創立に向けて,建設専門工事業者の社会的地位の向上と「職人大学」の創立,日刊建設工業新聞,19961115

 職人大学の創立に向けて,日刊建設工業新聞,19961115

 

建設専門工事業者の社会的地位の向上と「職人大学」の創立 

布野修司(京都大学助教授)

 

 「職人大学」の設立を目指す国際技能振興財団(KGS)が労働省の認可を受け、日比谷公会堂で盛大に設立大会が行なわれたのは、四月六日のことであった。母胎となったのは、サイト・スペシャルズ・フォーラム(SSF)である。その設立は一九九〇年十一月だから、小さな産声をあげてからほぼ五年の月日が流れたことになる。

 サイト・スペシャルズとは、サイト・スペシャリスト(現場専門技能家)に関する現場のこと全てをいう。職人、特に屋外作業を行う現場専門技能家の地位が不当に低く評価されている。その社会的地位の向上を実現するために「職人大学」をつくろう、と立ち上がったのが小野辰雄国際技能振興財団副会長をはじめとする専門工事業の皆さんであった。

 SSF設立当初からそのお手伝いをしてきたけれど、建設業界のうんざりするような体質にとまどうことも多かった。しかし、そうした中で頼もしく思うのは専門工事業の力である。とりわけSSFを支えてきた専門工事業の皆さんには頭が下がる。ゼネコンが川上志向を強め現場離れして行く中で、現場の技術を保有するのは専門工事業である。その未来に大いに期待したい。

 ゼネコンは管理技術のみに特化して空洞化しつつある。その実態を明らかにしたのが「職人問題」ではなかったか。建設産業を支えてきた職人が切り捨てられていく。誰が職人を育てるのか。問題は、日本の学歴社会の全体、産業界の編成全体に関わる。SSFは当初、精力的にシンポジウムを開催した。ドイツ、アメリカ、イギリスから職人、研究者を招いて国際シンポジウム行った。ヨーロッパのマイスター制度などに学ぶためにドイツへ調査に出かけてもいる。職人養成のためのシステムのみならず、職人育成のためのソーシャル・カッセ(社会基金)の役割、その仕組みに注目すべきものがあると考えたからである。

 SSFは真摯な議論の場であり続けた。どんな「職人大学」をつくるのか。自前の大学をつくりたい、これまでにない大学をつくりたい。大学の建築学科にいると嫌というほどその意味はわかる。今の制度的枠組みの中では限界が大きいのである。すなわち、普通の大学だと必然的に座学が中心になる。机上の勉強だけで、職人は育てることはできないではないか。とにかく構想だけはつくろう、ということで、いろいろなイメージが出てきた。本部校があって、地域校がいる。建築は地域に関わりが深いのだから、一校だけではとても間に合わない。さらに働きながら学ぶことを基本とするから、現場校も必要だ。

 しかし、議論だけしてても始まらない。それで生まれたのがSSFスクーリング(実験校)である。一週間から十日合宿しながら「職人大学」をやってみようというわけである。職長クラスの参加者を募った。何が問題なのか、どういう教育をすればいいのか、手探りするのが目的であった。ヴェテランの職長さんの中から「職人大学」の教授マイスターを発掘するのも目的であった。

 SSFの実験校は既に移動大学である、というのが僕の見解である。しかし、世の中いろいろとタイミングがある。SSFが飛躍する大きなきっかけになったのは、KSD(中小企業経営者福祉事業団)との出会いである。産業空洞化が危惧される中で、優れた職人の後継者の育成を怠ってきたのは誰か。その提起を真摯に受けとめたのが国会議員の諸先生方にもいた。参議院に中小企業特別対策委員会が設置され、「職人大学」設立は大きな関心を集め出すことになった。しかし、「職人大学」設立への運動は今始まったばかりである。専門工事業に限らず、建設産業界全体の取り組みが問われている。問題は、建設業界を支える仕組みなのである。


 

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