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2025年9月27日土曜日

マドゥライ:布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日

布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日


I18 ゴープラと祭礼の曼荼羅都市

マドゥライMadurai、タミル・ナードゥTamil Nadu、インドRepublic of India

 

タミル・ナードゥ州の南部中央、ヴァイハイ川の南岸に位置するマドゥライは、ヒンドゥー教の南インド最大の巡礼寺院であるミーナクシー・スンダレーシュワラ寺院を中心とする、古来のヴァーストゥ・シャーストラに則って計画されたと考えられるユニークな寺院都市である。

マドゥライの起源は、プラーナなど古文献に依るとはるか古代に遡ると考えられるが、必ずしもはっきりしない。その都市形成過程は、大きく3期に分けることができる。第1期は、古代から紀元14世紀までのパーンディヤ王国時代である。第2期は、15世紀から18世紀のナーヤカ朝時代で、この時代にナーヤカ王たちよって現在の都市形態の基本的骨格が形成される。第3期は、19世紀以降現在にいたる時代であるが、イギリスの支配下で、都市は急速に膨張していくこととになった。現在のマドゥライ市は人口約110万人(2015年)であり、タミル・ナードゥでは約500キロメートル離れたチェンナイに次ぐ第2の都市である。

古地図(図1)が図式的に示すように、ミーナクシー・スンダレーシュワラ寺院を中心に方形の街路が取り囲む形態をしている。ミーナクシー・スンダレーシュワラ寺院は、中心のガルバ・グリハ(聖室)をプラーカーラ(外周壁)が取り囲み、東西南北に台形状の高いゴープラ(楼門)を開く、南インド独特の寺院である(図2)。マドゥライは、この寺院を中心に、さらに同心方格囲帯状の街路でそれを4重に取り囲む方位軸にほぼ沿った入れ子構造をしている。この都市構造は、インド古来のヴァーストゥ・シャーストラの代表である『マーナサーラ』が理念化する村落類型のナンディヤーヴァルタ(中心のブラーフマン(梵)区画を、順に、ダイヴァカ(神々)区画、マーヌシャ(人間)区画、パイーサチャ(鬼神)区画が取囲む同心方格囲帯状の構成)あるいは、都市類型の一つラージャダーニーヤに最も類似しているとされる。ただ、実際の形態は、ミーナクシー寺院のプラーカーラの周囲を囲むチッタレイ通り以外、つまりアヴァムニーラ通りとマシ通りには、矩形とは言い難い大きな歪みがある(図3)。特に大きい南東部の歪みは、ティルマライ・ナーヤカ時代に王宮が建設されたためである。そして、アヴァニムーラ通りとマシ通り全体にみられる角の丸さと角付近の街路のふくらみは、大規模な山車の巡行を可能にするためではないかと考えられている。

 マドゥライの空間構造を象徴的に示すのが、都市祭礼における巡行路である。南インドにおける山車の巡行を伴う都市祭礼の歴史は古く、チェンマイなど他の都市でも現在も行われている。マドゥライはそうした中で最もその祭礼の形式を残している都市のひとつである。現在まで続いている同心方格囲状街路での巡行を伴う祭礼は、ナーヤカ朝時代に街路が形成された時期に始まり、17世紀にティルマライ・ナーヤカによって体系化され確立した。マドゥライでは、タミル暦に従い、月に一度祭礼が行われ、巡行を伴う祭礼は、ミーナクシー・スンダレーシュワラ寺院によって各月に行われる。祭礼は極めて複雑な体系を持つが、1年を1サイクルとして、1年を通して神々の神話を都市の中で再現するという意味付けを持ち、神話を再現する様々な儀礼が再現される。中でも最も重要な祭礼は、ミーナクシーの戴冠式とミーナクシーとスンダレーシュワラの結婚を祝うチッタレイ祭り(4~5月)で、最も大規模な山車の巡行が行われる。続いて重要な祭礼がスンダレーシュワラの戴冠式を祝うアヴァニムーラ祭り(8~9月)、ティルマライ・ナーヤカの誕生を祝うテッパ祭り(1~2月)である。 巡行路は祭礼によって異なるが、基本的に4つの同心方格囲状街路(アディ、チッタレイ、アヴァニムーラ、マシ)のいずれかで行われる。

 中心市街の商業施設として小規模な店舗と大規模な市場があるが、その多くが住居の全面または1階すべてが店舗として使用されている店舗併用住宅である。店舗の分布にはかなりの偏りがあり、カースト(ジャーティ)による棲み分けが行われていることがはっきりしている。街路の両側に同種の店舗が立ち並んでいる場合が多い。

 現在のマドゥライにみられる住居の形式は、プラーナ文献の断片にみられる中庭式住居である。古今東西、都市的集住形式として用いられてきたこの形式は、マドゥライでもその形式を基本に密度を高めてきたと考えてよい。住居の基本構造は、タミル語でティナイと呼ばれるベランダ、クーダムと呼ばれるホール、ナダイと呼ばれる廊下、プージャー(神像礼拝儀式)や寝室・倉庫として使用される部屋、台所、バックヤード(裏庭)から構成される。タミル語で部屋はアライと呼ばれ、台所はサマヤル・アライ、寝室はパドゥッカイ・アライ、プージャーのための部屋はプージャー・アライと、それぞれの用途に「部屋」をつけた名称で呼ばれる。




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