第三回インタ-ユニヴァ-シティ-:サマ-スク-ル,雑木林の世界51,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199311
雑木林の世界51
飛騨高山木匠塾
第3回インターユニヴァーシティー:サマー・スクール
布野修司
今年の飛騨高山木匠塾は、岐阜県と共催の研修プログラムやシンポジウムの開催、茨城ハウジングアカデミーの夏期研修など様々なプログラムが平行して行われ、実に多彩なものとなった。学生の自主的運営を段々目指そうとしているのであるが、全ての中心にいてプログラムを切り盛りしたのは、東洋大学の秋山哲一先生である。また、芝浦工業大学の藤澤好一先生である。
僕の場合、先号で述べたように諸般の事情で二泊三日しか参加することができなかった。そこで、今回は、京大および関西組の幹事役を立派に果たした川崎昌和君(京都大学大学院)にレポートをお願いすることにした。
今年の木匠塾は思いもかけぬ雨にたたられ、野外での活動を主旨とする木匠塾の参加メンバーにとっては何とも恨めしく思われた。にもかかわらず、昨年までの蓄積とメンバー達のやる気もあって、かなり充実したものになったといえよう。参加大学は七大学を数え、これに茨城ハウジングアカデミー、M 設計事務所、さらには高山からの一般参加者が加わり、一時は百人を越え、かなり賑やかな交流の場とすることができた。茨城ハウジング・アカデミーは、大工を目指す若者の学校であり、平日には実際の現場に出て作業・見習いをしながら週二日この学校で建築技術や理論を学ぶというものである。その行動力には目を見張るものがあり、彼らが今年の活力源になったといってもよいだろう。特に大学で安穏とした学生生活を送って者にはよい刺激となった。
以下に今年の木匠塾の活動の日誌を書いてみる。
八月一日 関東、関西の各地から三々五々車で木匠塾の宿舎(元は営林署の製品事業所で、かなりの年代物である)に参加者が集まってくる。一年間空き家となっていた場所であるので、総出で大掃除・布団干しをするが、今にも雨が降り出しそうな空の下なかなか布団が乾かず、その晩は幾分湿った布団で寝ることになる。
八月二日 この日から本格的に活動が始まる。今年の実習は大きく三つに分かれた。まず、宿舎の周辺施設計画で、高低差のある二つの宿舎をつなぐルート、周辺の散策路、野外ステージ、果ては展望台までつくってしまおうとするものである。次は岩風呂計画。二つの宿舎の間にある朽ちかけた倉庫を利用し、かねてから望まれていた風呂をつくろうとするものである。そしてもう一つは飛騨高根村のかがり火祭りに出店する際の屋台をつくり、祭りの日にはお助け飯、野麦汁、焼き鳥、日本酒を売ってしまおうというものだ。それぞれのグループに分かれて案を詰める。この日の夜はオープニング・パーティーということで、高根村の村長さんがわざわざお見えになり、挨拶をしてくださった。高根村の方々にはいろいろと便宜を働いてもらっており、全く頭の下がる思いである。
八月三日 雨が降ったり止んだりするなか、それぞれ作業を進める。散策路のグループは、薮の中を悪戦苦闘しつつ道を切り開き、切り出し材の皮を剥いだりする作業。岩風呂のグループは、この日から参加の三澤文子率いるM 設計の面々を中心に、一日で設計図からパース、木拾い表まで作り上げてしまった。プロは強い、と学生の面々。木匠塾の精神として、スクラップ・アンド・ビルドはやめようと現存の建物を生かす方向に決定。他のグループの精力的な活動に負けじと、屋台グループも本格的に制作を開始、ハウジング・アカデミーの人たちを中心に、装飾の格子、蔀戸などに慣れない手つきで挑戦する。
八月四日 この日は林業経営についての実習と見学。アカマツの国有林に入り、間伐作業を体験。実際にはあまり高く売れないアカマツを植えざるを得なかった森林行政の悲しさを垣間みる。その後森林組合の製材所に行き、木材の加工現場を見学。夜は遅れ気味の屋台の制作が続く。
八月五日 日綜産業の藤野さんによる足場組立実習および安全に関する講義。建設現場での事故をなくそうと尽力する藤野さんの熱意を無駄にしたくないものだ。丸太を使ったステージや展望台も大方できあがり、ちょっとしたフィールド・アスレチック上のような感じになってきた。岩風呂グループは来年度の作業の下準備ということで基礎部分の補強作業をする。晩には東洋大学の太田先生によるスライドを交えたレクチャー「世界の木造住宅」が行われた。例年であれば野外でのレクチャーとなるが、雨のおかげで百人近い人数が宿舎の食堂に所狭しと集まって聞くこととなる。
八月六日 高山市内見物。ただし木匠塾が今年で三回目という者もおり、一部は残って作業を続ける。特に屋台グループは明日が本番とあって最後の追い込みとなり、晩になってようやく仮組立をすることができた。この日の宿泊者は百名を越え、寝場所がないといった具合になってしまう。
八月七日 「日本一かがり火祭り」当日。女性陣を中心としたメンバーは売り物の調理を村民センターで行い、他のメンバーで会場で屋台の組立。十二時頃から販売開始、十万ほどの利益を挙げ何とか完売にこぎつけることができた。最もその利益も一日でビールの泡として消えていってしまうのだが・・・。
八月八日 この日は二人の講師陣を迎えての特別講義。民家の再生の専門家の降幡氏と、建築、家具製作からパッシヴ・ソーラー・システムまで幅広く活躍されている奥村氏が熱弁を振るってくださった。
八月九日 学生達が待ちに待った野球大会。昨日、今日とうまい具合に雨が降らず、少し救われた感がある。最後の夜とあって、フェアウェル・パーティーが行われ、長いようであっという間に過ぎていった今年の木匠塾を振り返った。来た当初には「こんな山奥から早く帰りたい」と言っていたハウジング・アカデミーの面々が「来年も後輩を連れてきます」といってくれたのは非常にうれしかった。
八月十日 片付け・清掃をした後、各自帰路につく。
今年の木匠塾では様々な企画が盛り込まれ、それぞれが作業にいそしむことができた反面、学生の間でのゼミをあまり行えなかった。真剣に自分の研究・他の者の研究について討論するというのは大切であり、ある意味でシビアな場を設けたかった。また高山からの一般参加の人たちは三日間の参加ということもあって、少しとけこみにくかったようで、この辺を是非来年に向けての課題としたいところだ。