04 アンコ-ルワット,おしまいの頁で,室内,199804,
アンコールワット
布野修司
遅ればせながら「アンコールワットとクメール美術の1000年展」(大阪市立美術館)を見た。正直、そうびっくりしなかった。本物のアンコールワットを見て驚いたことがあるからである。建造物の迫力は現地に行かないとわからない。
しかし、今回の、ギメ国立東洋美術館とプノンペン国立博物館のコレクションが水準の高いものであることは間違いない。個々の仏像や神像は実に迫力があった。クメール美術の実力は相当なものだ。
ヒンドゥーの神々を見分けるには、その持ち物、乗り物を見ればいい。四本の手に、円輪(チャクラ)、法螺貝、棍棒、蓮華を持つのがヴィシュヌで、乗り物はガルーダ(神鳥)。シヴァは虎皮を腰に巻き、蛇を首に巻く。ナンディン(牛)が控える。わかりやすいのは象の頭のガネーシャ。シヴァの息子で、知恵と繁栄の神様。馬の頭がヴァージムカ。ヴィシュヌの化身だ。ヴィシュヌは猪、獅子、亀、魚など多くに化身する。猿の姿はハヌマーン。孫悟空の原型になったとされる。ヒンドゥーの物語を思い浮かべながら、神々を品定めするのは楽しい。
ヒンドゥー教など知らない、などというなかれ。仏教の世界にもその神々は忍び込んでいるのだ。梵天とはブラーフマンのこと。帝釈天はインドラ(雷神)だ。馬頭観音だってそうだ。京都の寺を歩きながらヒンドゥーの神々を見つけるのが楽しみになりつつある。仏像に興味を抱くのは年をとった証拠かもしれない。
ところで「アンコールワットに感嘆するのは好事家の仕事」といった建築家が戦時中の丹下健三である。当時の新興建築家にとって、仏教やヒンドゥー教の八百万の神々の世界は魑魅魍魎の世界と思えていたのかもしれない。それに少し先立って、バンテアイ・スレイという遺跡から石材を運び出し、逮捕された(一九二三年)のがアンドレ・マルローである。さらに遡って、江戸時代にアンコールワットを訪れた日本人がいる。家光の命によってオランダ船に乗船した長崎の通詞島野兼了だ。彼はなんとアンコールワットを祇園精舎と間違えた。その話はかなり有名で建築家・伊東忠太が天皇にご進講に及んでいる。アンコールワットの世界最古の図面は日本人が残したのである。
『室内』おしまいの頁で199801~199912
◎01百年後の京都,おしまいの頁で,室内,199801
◎02室内と屋外,おしまいの頁で,室内,199802
◎03英語帝国主義,おしまいの頁で,室内,199803
◎04 アンコ-ルワット,おしまいの頁で,室内,199804,
◎05 ヤン・ファン・リ-ベック,おしまいの頁で,室内,199805
◎06 秦家,おしまいの頁で,室内,199806
◎07 木匠塾,おしまいの頁で,室内,199807
◎08建築家と保険,おしまいの頁で,室内,199808
◎09桟留,おしまいの頁で,室内,199809
◎10 インド・サラセン様式,おしまいの頁で,室内,199810
◎11 ヴィガン,おしまいの頁で,室内,199811
◎12カピス貝の街,おしまいの頁で,室内,199812
◎13ダム成金の家,おしまいの頁で,室内,199901
◎14 J.シラスのこと,おしまいの頁で,室内,199902
◎15 ジベタリアン,おしまいの頁で,室内,199903
16西成まちづくり大学,おしまいの頁で,室内,199904
17 スラバヤ・ヤマトホテル,おしまいの頁で,室内,199905
◎18京都デザインリ-グ構想,おしまいの頁で,室内,199906
◎19 ジャングル,
おしまいの頁で,室内,199907
◎20 大工願望,おしまいの頁で,室内,199908
◎21日光,おしまいの頁で,室内,199909
◎22ヴァ-ラ-ナシ-,おしまいの頁で,室内,199910
◎23北京の変貌,おしまいの頁で,室内,199911