画期的な「作品選集」発刊,周縁から35,産経新聞文化欄,産経新聞,19900416
35 作品選集 布野修司
日本建築学会から『作品選集』の第一号が発刊された。今後、毎年出されることになる。いささか皮肉めくかもしれないけれど、画期的なことである。
『作品選集』というのは、近年竣工した会員の建築作品を選考し、作品集として編んだものだ。第一号には八〇作品が掲載されている。見開き二頁で一作品が扱われ、カラー写真、図面、設計主旨、選評によって構成される。
カラー写真のせいで、『作品選集』は、一見、商業雑誌風に見える。『建築雑誌』(日本建築学会の機関誌)でカラーで作品が扱われるのはなかったことである。画期的なのは、日本建築学会が建築作品を『作品選集』ということでその評価も含めて扱ったことである。皮肉めくかもしれないというのは、建築学会だというのに、建築作品の評価について議論する場が、日本建築学会賞の選考の場などをのぞいて、これまでなかったからである。
日本建築学会は、建築についての学術、芸術、技術の総合をうたうのであるが、明治期に造家(ぞうか)学会として創立されて以来の伝統で、技術に偏してきたきらいがある。また、作品の評価については、論文にならないということで、まともに扱ってこなかった歴史がある。専ら、作品の批評を展開してきたのは建築ジャーナリズムの側である。
『作品選集』というのは、論文集と同じように、作品を発表する場と考えることによって発案されたという。建築ジャーナリズムに対して単に新たな権威づけをねらったものにすぎないとすればそう興味はない。期待するのは、建築批評の言語がその場を通じて鍛えられていくことである。建築批評の世界は決して豊かとはいえない。極論すれば、好きか嫌いかといった全体批評、漠然とした印象批評、また、使い勝手が悪いといった素朴機能主義的批評、あるいは、収まりがうまいかどうかといったディテール批評にとどまっているのである。
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