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2023年5月11日木曜日

日本にも都市型住宅,周縁から33,産経新聞文化欄,産経新聞,19900402 

 日本にも都市型住宅,周縁から33,産経新聞文化欄,産経新聞,19900402 

33 都市型住宅                           布野修司

  都市型住宅という言葉がある。じゃあ、田舎型住宅とか農村型住宅という言葉があるのかと言われると困るのだけれど、都市には都市にふさわしい住宅の型がある、という程の意味で使われる。

 都市型住宅として普遍的といっていいほど世界中で一般的にみられるのが中庭式住居(コートハウス)である。ギリシャ・ローマの時代に既に型として存在するし、イスラム圏の住居はコートハウスが基本である。中国の四合院、三合院と呼ばれる住居形式も中庭式である。

 中庭は光や通風など自然環境を保証すると同時に、内部の部屋を連結する機能をもつ。また、それ自体様々な作業のスペースとなる。都市的集住状況で中庭式住宅が生み出されるのは自然であり、よく理解できる。

 しかし、日本の場合、そうした都市型住宅の伝統は希薄である。坪庭をもった町屋の形式はあるのであるが、どうも一般的ではない。住宅の原型になっているのは、それこそ農家住宅なのだ。庭付き一戸建ての住宅に日本人は拘り続けているようにみえるのである。

 都市型住宅の対極にイメージされるのはそれだけで自律できる、例えば、自給自足とはいわないまでも、ゴミなども敷地内で処理できる自己完結的な住居形式であろう。庭付き一戸建ての住宅には、どうもそうした唯我独尊的なイメージがある。猫の額ほどの庭ではどうしようもないのに、「家庭とは家と庭です」といった意識にとらわれ続けているのは困ったものである。

 一方、建築家もまた責められていい。何故なら、都市型住宅のモデルを創り出すことをどうもさぼってきたと言えるからである。特に、中高層の都市型住宅についてそうである。ただ住戸を積み重ねただけの集合住宅があまりにも多い。また、様々な法規制から敷地の中央に塔のように立つパヴィリオン形式のものがほとんどである。

 都市の町並みをつくっていく上で、それにふさわしい都市型住宅が成立することは不可欠である。しかし、都心に庶民が住めない状況ではそんなことは望むべくもない。




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