41 凝固剤の問題,周縁から41,産経新聞文化欄,産経新聞,19900604
41 凝固剤 布野修司
御徒駅前の新幹線の工事現場での道路陥没事故以来、土壌を固める凝固剤がクローズアップされている。凝固剤の注入量不足が陥没の第一の原因とされたからである。
事故以降、各地の地下トンネル工事現場で抜取り調査が行われたが、凝固剤が注入してあっても強度が足りない例が多いのだ。まず、指摘されるのは、注入量不足が起こる慢性的な構造である。凝固剤そのものの単価は安いのであるが、なにせ量が莫大である。その量を節約すれば、かなりの費用をうかすことができる。つい手抜きをしてしまう、というのが一点である。残念ながらここでも業界の重層的な下請構造がそうした手抜きを生む原因でもある。
また、事故さえなければ凝固剤の効果が問われないという問題もある。設計においては、ある強度を想定し、凝固剤の使用を前提とするだけである。そうした現場と設計の解離の問題がもう一点である。地盤は決して等質ではないし、理論のみでは扱えない面をもつのである。
凝固剤の問題がクローズアップされることにおいて、否応なく考えさせられるのがこのところの地下開発ブームである。大規模な地下空間を利用する様々なプロジェクトが華々しく打ち上げられているのであるが、なんとなく砂上の楼閣ならぬ、砂の中の楼閣のように思えてくるのだ。
凝固剤の大量使用については、何故かあまり指摘されないのであるが、もうひとつ別の問題がある。地下水汚染などの問題である。凝固剤そのものは、水ガラスといわれる珪酸ナトリウムが主体でそれ自体人体に影響はない。しかし、凝固のスピードをコントロールするために加えられる物質に有害なものが含まれる場合があった。また、人体に影響なくても、塩分など、水に溶けてコンクリートなどの劣化を招くものが含まれる可能性がある。大規模な地盤改良はそんなに容易なことではないのである。
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