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2023年1月3日火曜日

高根村・日本一かがり火まつり,雑木林の世界37,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199209

 高根村・日本一かがり火まつり,雑木林の世界37,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199209

雑木林の世界37

飛騨高山木匠塾・第二回インターユニヴァーシティー・サマースクール報告

高根村・日本一かがり火まつり

                        布野修司

 五月号でご案内した飛騨高山木匠塾・第二回インターユニヴァーシティー・サマースクール(七月二五日~八月二日)をほぼ予定どおり終えた。参加者は、ピーク時で八〇名、合わせて九〇名近くにのぼった。この「雑木林の世界」を読んで参加した人たちが十二名、感謝感激である。

 主な参加大学は、芝浦工業大学、東洋大学、千葉大学、京都大学、大阪芸術大学の五校。もちろん、単独の一般参加もあった。教師陣は、太田邦夫塾頭以下、秋山哲一、浦江真人、村木里絵(東洋大学)、藤澤好一(芝浦工業大学)、安藤正雄、渡辺秀俊(千葉大学)、布野修司(京都大学)。それに今年は、大阪芸術大学の三澤文子、鈴木達郎の両先生が若い一年生(一回生)を引き連れて参加下さった。三澤先生には、特別にスライド・レクチャーもして頂いた。

 極めて充実した九日間にわたるスクールの内容のそれぞれはとても本欄では紹介しきれない。いくつかトピックスを振り返ってみよう。

 なんといってもハイライトは足場丸太組み実習である。講師として、わざわざ藤野功さん(日綜産業顧問)が横浜から来て下さった。藤野さんは重量鳶の出身である。特攻隊の生き残りとおっしゃる大ベテランなのだが、若い。今でも十分現役が勤まる。外国にもしばしば指導に出かける大先達である。そうした大先生が二十歳の若者に負けない体力、気力を全面にたぎらせて、精力的に指導にあたって下さった。

 塾生のノリは明らかに違う。単なるレクチャーだと眠くなってしまうのであるが、実習となると生き生きしてくる。現場で学ぶことはやはり貴重である。

 藤野さんが到着した夜、早速講義である。四時間でも、五時間でも話しますよ、聞かないと損ですよ、というわけである。まずは、ロープ術である。キング・オブ・ノットと言われる、世界共通の基本の結び方から、「犬殺し」など数種の結び方を教わった。まるで手品のような早業なのであるが、よくよく理解すると、成るほど知恵に溢れた縛りかたである。ヨットや山登りをやるのならともかく、ロープの使い方など日常生活では習うことがない。極めて新鮮であった。

 ロープの結び方をマスターした翌日は、いよいよ、足場丸太組実習である。全員参加でステージをつくったのであるが、まずは丸太の皮剥きである。柄の長い鎌とナタ出で皮を剥いでいくのであるが、結構時間がかかる。そして、一方、丸太を縛る番線をみんなで準備した。これはなれるとそう難しくない。準備ができると、いよいよ組立である。

 番線を締めるシノの使い方が難しい。きちんと締めないとガタガタである。いっぺん失敗するとその番線は使えない。番線をいくつも無駄にしながらも、皆だんだん慣れてきた。うまく行き出すと一人前の鳶になった気分である。階段もつけ、梯子もつくってしまった。完成はしなかったものの、筏つくりに挑戦しようとしたグループもいる。

 藤野さんは、安全と集団の規律には厳しい。朝はラジオ体操で始まり、決められた時間と場所でしか喫煙は駄目である。当たり前のことだけれど、なかなかできない。若い諸君のだらしなさにはイライラされっぱなしであった。それでも、皆が一生懸命だったのを認められたのか、来年も来てやるとおっしゃった。何をつくろうか、今から楽しみである。

 測量実習では、敷地の測量を行った。来年以降の施設整備のためのベースマップとするためである。二つの棟をどう改造するか、また、どう結びつけるか、いささか不自由している風呂の問題をどうするか、バイオガス利用はどうするか、様々な意見が出始めている。来年は、大工仕事も実習になるかもしれない。

 今年は、切り出し現場および「飛騨産業」に加えて、製材所(安原木材)の見学を行った。また、オークヴィレッジと森林匠魁塾にもお世話になった。見学だけでは何かがすぐ身につくということではないけれど、木への関心を喚起するには百聞は一見に如かずである。飛騨の里というのは、木のことを学ぶには事欠かない、実にふさわしい場所である。

 渓流が流れ、朝夕は寒いぐらいに涼しい。森に囲まれ、飛騨高山木匠塾の環境は抜群である。野球大会や釣りなどリクレーションも楽しんだ。まだ、まだ、ハードスケジュールであったけれど、昨年よりはスケジュールの組み方はうまくいったように思う。食事の改善は見違える程であった。リーダーの工夫でヴァラエティーに富んだ食事を楽しむことができた。

 何よりも、学生にとってはそれこそインターユニヴァーシティーの交流がいい。特に、日本の東西の大学が交流するのはなかなか機会がないから貴重である。日本の臍といわれる飛騨高山はそうした意味でもいいロケーションにある。

 飛騨高山木匠塾は、実に多くの人々に支えられて出発しつつある。わが日本住宅木材技術センターの支援はいうまでもないのであるが、実際には久々野高山営林署(新井文男署長)の支援が大きい。また、地元、高根村の御理解が貴重である。

 ところで、その高根村で毎年八月の第一土曜日、「日本一かがり火まつり」が開かれる。昨年はみることができなかったのであるが、今年は最後にみんなで出かけて楽しんだ。

 とにかく、すごい。勇壮である。高根村と営林署の御好意で松明行列に残った全員で参加したのであるが、滅多にない体験である。火を直接使ったり、見たりする経験は、日常生活においてほとんどなくなりつつあるのであるが、原初の火に触れる、そんな感覚を味わうことができたような気分であった。わずかな時間であったが、高根村の企画部の人たちと飛騨高山木匠塾の塾生とささやかな交流をもつことができた。来年は、是非、飛騨高山木匠塾で店を出して欲しい、という要望があった。また、祭の出し物を何か出して欲しいという、要望もあった。

 「かがり火祭」は村を挙げての大イヴェントである。考えてみれば、大変忙しい時期にお邪魔して迷惑をかけているわけである。来年からは少しはお手伝いをしなければ申し訳ない。時間がかかるかも知れないけれども、飛騨高山木匠塾が根づくために、高根村の皆さんとの交流をさらに深めていくことは不可欠なことである。

 







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