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2023年1月27日金曜日

町家再生のための防火手法,雑木林の世界54,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199402

 町家再生のための防火手法,雑木林の世界54,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199402

雑木林の世界54

町家再生のための防火手法

                       布野修司

 

 京町家再生研究会については本欄で触れたことがある(雑木林の世界   1992年10月)。その後も月一回のペースで熱心な研究会が続けられている。バタバタしていてなかなか出席ができないのであるが、可能な限り参加するようにしてきた。

 前にも書いたように、研究会は単なる研究会ではない。具体的な実践を行なうことを大きく掲げる。この間、いくつか具体的なプロジェクトも行われ始めた。ひとつは本部(小島家)のすぐ隣地における新町家の設計プロジェクトである。また、もうひとつは橋弁慶町の町会所の再生計画である。

 橋弁慶町というのは祇園祭の時に山鉾を出す山鉾町のひとつである。その町会所は町(ちょう)の中心で、橋弁慶山を収蔵する蔵をもつ。近年は、その一部をテナントに貸し、かろうじて維持してきたのであるが、老朽化が激しく、建て替えが課題になってきた。両隣は数回建てのビルとなり、その狭間に取り残される形である。両隣のビルがセットバックしたためにその存在はひときわ目立つ。

 他の目抜き通りに面した町会所のように建て替えによるビル化が必至と考えられたのであるが、幸いというかバブルが弾けた。また、なんとか木造のまま、もとのまま維持していきたいという声も大きくなってきた。テナントになってもいいという人たちもでてきた。その結果、町会所を残しながら再生、再利用することになったのである。

 もちろん、ことはスムースに運んだわけではない。紆余曲折があり、一頓挫もした。しかし、ようやく近隣との調整もついて、建築確認も下りたところである。

 本部の隣の町家再生というのは、町家の町並みとの調和を考えながら事務所を組み込もうというプロジェクトである。このプロジェクトは既に着工済みであるが、大きな問題にすぐさまぶち当たった。防火の規定である。いくら町家を再生しようとしても木造では不可能なのである。

 準防火地域、防火地域で木造建築は多くの制約を受ける。全国一律そうである。軒裏は防火材料で塗込めるか覆わなければならない。延焼の恐れのあるところは、焼き杉板など伝統的な材料は使えないのである。そこでなんとかならないかということで、京都市に委員会がつくられた。「町家再生に係る防火手法に関する調査研究」委員会という。

 イニシアチブをとられたのは、京町家再生研究会の顧問でもある横尾義貫先生と堀内三郎先生である。まず、一九九一年、一年をかけて望月秀祐会長を含めて市の各部局の幹部職員との懇談会がつくられ、一九九二年九月に正式に委員会(西川幸治委員長)が発足したのである。両先生の熱意が市を動かした感じである。

 ところで、その横尾先生の指名で、神戸大学の室崎先生と一緒にその委員会のワーキングをやる羽目になった。防火なんて畑違いだと思いながら、大先生に逆らうわけにはいかず、意を決して取り組みだしたところである。

 ところが始めだした途端悪戦苦闘である。法制度の壁はいかにも厚い。歯ぎしりする思いである。以下がおよその作業内容であるが正直言って荷が重い。しかし、何とか先例にならないかという思いも湧いてくる。

Ⅰ.調査研究(町家再生)の背景・目的の設定

 新京都市基本計画の第3章第1節住宅・住環境の整備は(1)京都らしい良質な住宅ストックの形成において京町家・街区の再生をうたう。「良好な京町家が連坦し伝統的な雰囲気を残す街区については、京都らしさの継承等を目的として新たな地区指定を行い、積極的な防災措置や改善助成などにより、その保全と再生を図る。また、京町家の居住や商業・業務機能への活用を誘導する。」そして、京町家の街区の指定と改善助成、京町家活性化事業(地・家主、民間事業者等と連携しながら町家、長屋等を改修し、居住機能や商業・業務機能として再生・活用を図る事により、京都らしい町並みを整備し、町の活性化を目指す事業)を展開しようという。また、第8章第2節歴史的風土・景観の保全と創造の(3)市街地景観の保全と創造のなかでは、ア.歴史的市街地景観の保全、イ.市街地景観の調和と創造((ア)美観地区制度の指定地区拡大 (イ)景観形成地区制度(ウ)共同建替、協調建替)がうたわれる。

 景観行政については京都は先進的に取り組んできた。伝統的建造物群保存地区や特別保全修景地区、歴史的界わい景観地区などいくつかの手法を実践してきている。しかし、町家の再生、とりわけ、街区の再生となるとどのような手法があるのか、そこがポイントである。

Ⅱ.研究対象とする町家等の範囲の明確化

 議論において、常に問題になるのは、町家の再生が「保存」にウエイトがあるのか、建替え等新たな「建築行為」を対象とするのかということである。また、再生すべき町家とはどのようなものかということである。全て木造でなければならないのか。イミテーション木造でいいのか。漆喰、真壁は準防火地域で認められているが、問題は軒裏である。例えばファイヤーストップなど新構法を用いた場合、本当に伝統的町家と言えるのか。

 京都市には、戦前に建設された木造住宅が     戸ある。一九八八年のストックだと      戸である。その中から残すべき町家をリストアップすることは大変な作業である。

 まずは、文献調査ということで、既存の調査報告、文献から対象となりそうな町家をリストアップしてみた。また、京都市の都市景観課が実施した膨大な都市景観資源調査の分析に手をつけ始めている。

Ⅲ.防火手法を考える与条件としての災害の程度の想定

 京都市における火災発生状況を調べてみた。発生場所をプロットしてみると全域に点が落ちる。ただ、全国の他の都市に比べると極めて少ないという。また、注意してみると住宅地は火災発生が少ないことがわかる。防火にはソフトな対応も極めて重要だということであろう。

Ⅳ.対象類型別防火手法の整理

 問題は、大きく三つに分けられる。ひとつは防火規定の「適用除外」による方法である。建築基準法の八五-二による「重要伝統的建造物群保存地区」指定(文化財保護法八三-三)によるものと建築基準法三-一-一による地方公共団体指定あるいは登録、さらにその他条例による方法である。もうひとつは建築基準法三八条の大臣特認による方法(建基法六七-二)である。さらにもうひとつは、防火区域など地区指定を介助するなどその他の方法である。

 伝統的建造物群保存地区指定の可能性は京都ではかなりある。石塀小路は一九九四年度伝建地区指定の予定だし、宮川町、上七軒、裏千家周辺、松ヶ崎集落、西本願寺周辺、先斗町、伏見の酒蔵、三条通などが候補とされている。しかし、他の方法となるとなかなかやっかいな問題がありそうである。

 途中経過および結果についてはまた報告しようと思う。

 

 


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